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日本はやや出遅れた「量子コンピュータ」研究。具体的に何ができるのかトヨタを例に解説

ビジネス

自動運転システムへの応用も?

量子コンピュータ

 他にもトヨタは同社の研究部門、豊田中央研究所を通じて量子アニーリングマシンを用いた渋滞緩和の実証実験を行っています。従来の信号システムは、周辺の安全、渋滞の緩和を目的としており、首都圏の渋滞を見れば分かるように都市全体の渋滞を緩和するようには設定されていません。

 トヨタでは量子コンピュータを用いて渋滞を緩和するような信号システムをシミュレーションしました。実験では50×50の道路からなる都市を想定し、シミュレーションを実施したところ、従来よりも10%車の流れやすさが向上する結果が得られたようです。

 車両メーカーであるトヨタが交通システムの効率化を研究する背景には何があるのでしょうか。考えられるのが自動運転です。自動運転では人間ではなくシステムが車両個々のルートを決定します。

 人間が運転する場合は大通りに車両が集中しますが、これを全てシステムで管理できれば一部の車両をあえて遠回りさせることで全体では渋滞を緩和できるようになります。トヨタは自動運転システムへの応用を見据えて量子コンピュータの研究を実施しているかもしれません

 以上2つの例から、量子コンピュータは従来のコンピュータでは難しかったシミュレーションを得意とすることが分かります。何万、何十万以上の通り数がある問題を解決でき、従来プロセスの低コスト化や新たなサービスの開発につながると期待できます。

新素材の開発にも応用されている

 トヨタのようなプロセス開発を目的とした量子コンピュータの研究は、メルカリによる配送ルートの合理化など同様の例が見られます。しかし、それ以外にも新素材開発への応用が期待されています。

 美味しいラーメンは麺の太さ、タレの素材、調味料の量や種類が決まっているのと同様に、プラスチックや合金などの素材も目的とする性能を確保するためには「最適な配合・量」を求めなければなりません。従来は研究者が実験を繰り返すことで配合を求めていました。

 従来型の研究開発は長い年月を要し、失敗した場合はそれまでの投資額が水の泡となってしまう事もあります。しかし、量子コンピュータを活用すれば短時間で新素材を開発できるようになるでしょう。何万以上もある原料と、何十万以上の組み合わせから最適な配合量を決めるのは量子コンピュータの得意技です。

 実際に三菱ケミカルが研究を進めるほか新薬開発の分野でも研究が進められています。また、従来の方法では思いもよらなかった原料を使った組成を導き出す可能性もあり、特異な素材・医薬品の発見にもつながるかもしれません

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