北朝鮮・強制収容所の地獄を描く“在日コリアン”監督が、今の若者に伝えたいこと
「必ず笑われる履歴書」でも、なんとかなる
――監督は映画だけでなく、出版、教育事業など多方面で活躍されていますが、現在の肩書きは何ですか?
清水:実はそれを聞かれると困るんですが……母親に「お前の肩書き何?」と聞かれて困ったこともあります。そこそこ仕事はしているけれど、母に届いていなくて参りました(笑)。
でもこの記事を読んでいる若い読者は、21世紀に生きている。いろいろやって、そこそこ結果を出せていれば、肩書きが何であろうと構わない。僕はそう思っています。
――肩書きを決める必要はないと?
清水:フットワークが軽い人の顛末であると思うんです。昔とは違う。基本的なバリューは同じかもしれないが、結果は出しやすい事情があります。たとえば有名なラーメン屋に丁稚奉公して、10年以上経ってやっと開業するように、映画の世界でも長期間現場でスタッフとして働くことで培って、ようやくできることももちろんありますが、今は3クリックしたら答えが出てくる時代でもある。それも事実なんです。
――昔だったらあり得ないと。
清水:だから、僕がナイーブに「アニメ映画を作ります」と言うと、昔の人は「これまで何本作った?」「絵は描ける?」「脚本は?」と笑うと思う。答えは“ないない尽くし”ですし、必ず笑われる履歴書なんでです。
でも、今は技術で、世界中の人とつながれるようになったので、僕には無理でも、できる人を集めれば「なんとかできそう」という構図は描けるわけです。
――それが本作につながるわけですね。
清水:そうですね。良いアニメーターがインドネシアにいる、これだけの予算があれば呼べる、これだけの手間がかかるが、似たようなイメージがほしいとリンクを送れば作れちゃう、そういう時代なんです。だから、まったくの未知な世界でもなかった。そして実際にできたわけです。
今は“フットワーク軽く生きられる時代”
――次の世代に言いたいことは何でしょうか?
清水:若い読者に言いたいことは、たとえば映画制作で言うと、映画を作ったことがなくても伝えたいこととパッションがあるならば、ちょっとリサーチすれば、必ず実現する方法が見つかるはずだし、小さく始めて大きく育てることもできる。それは間違いないことなんです。
――資格モノ以外は、本人次第みたいなところはありますよね。
清水:僕以上のおじさん世代の人たちに言わせると、変な根性論や遠回りする我慢を言われるとは思いますが、それは過ごした時代が違います。もし結果が出なければ、辞めて別な道に行ってもいいんですよ。
そこを「こうでなくてはいけない」みたいな根性論で片付けることは終わっていると思うんです。興味とパッションがあれば、どんどん動いたほうがいい。失敗したら謝ればいい。若い人には、そうあってほしいですね。
――さて、初監督を成し遂げた今、次の目標は何ですか?
清水:いま50歳ですが、妙な自信はあるんです(笑)。これから小説を書け、家を建てろと言われたら、時間はかかるだろうし、ベストセラー作家にも一級建築家になるのは無理だけれど、なるようにはなると思う。成功するかどうかは別です。頑張ればできるだろうということです。
フットワーク軽く生きられる時代に生きているので、いろいろやりたいですよね。でもやっぱり『トゥルーノース』を撮って思ったことは、映画監督の仕事は麻薬みたいなものなんです。面倒臭いのですが、またやりたくなっちゃうと思います(笑)。
<取材・文/トキタタカシ>