「お前が言ったのか?」通報者が“脅迫”されるパワハラ防止法は欠陥だらけだ
企業規模で法律が異なるのは大きな問題
――中小企業にも変化があらわれているんですね。
村嵜:とはいえ、中小企業にパワハラ防止法が適用されるのは2022年4月から。大企業に勤務する方と中小企業に勤務する方で法律の適用に違いがあるのは納得できません。同じ人間なのに、ハラスメント被害にあったとき、企業に対して主張できる内容が異なるのはかなり問題だと思います。
痴漢されたとき、大企業は警察に通報できて、中小企業・フリーランス・就活生は警察に通報できないのと同じだと感じます。
――確かに不公平です。しかし、中小企業は人員的・経済的問題などで迅速な対応が難しい側面もあります。そのあたりについてはどう思いますか?
村嵜:おっしゃるとおり、中小企業がすぐにパワハラ防止法に対応するのは難しいかもしれません。それでも私は、スタートは同じにするべきだと思っています。
――それはなぜですか?
村嵜:職場で働く従業員にとっては、パワハラ防止法が適用されることで「ハラスメントはおかしい!」と安心して声を上げられます。しかし、「中小企業はまだです」となれば、安心感を得られず、いまの環境を変えることもできない。職場に向かうモチベーションも下がりますよね。
中小企業で適用されたときに、運用面でうまくいかないことがあったとしても、その都度考えながら、ハラスメント対応の経験と改善を積み重ねていけばいいと思います。
――なるほど。第一に考えるべきは、従業員が安心して働けることですね。
村嵜:はい。ハラスメントは精神的な苦痛が大きく、ため込んでしまうのが一番危険です。だから具体的な解決に至らなくても、安心感を持ってもらうのはすごく大切だと思います。それに大前提として、企業は従業員に対する安全配慮義務がありますので。
<取材・文・撮影/新妻 翔>
【村嵜要】
1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。J-WAVEのラジオ番組でパワハラ防止法の解説、テレビ朝日「しくじり先生」モラハラにあたる言葉、金城学院大学「就活セクハラ講習会動画」などの監修を手がける。
Twitter:@murasaki_kaname