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働いても生活が苦しい。日本で20年間も賃金が下がり続けているわけ

ビジネス

労働分配率もデフレの影響によって下落

 次に、“労働分配率”(企業が稼いだお金を従業員にどれだけ分配しているかの割合)についてはどうだろうか。財務省は2019年度の金融業と保険業を除く全産業の内部留保(利益余剰金)が過去最高の475兆161億円に上ると発表した。

 一方で、労働分配率は2009年(74.7%)から2019年(68.6%)にかけて大きく下落しており、「企業は利益を従業員に還元していない」といった批判も少なくない。労働分配率と実質賃金の関係性を聞くと、藤井氏は「労働生産性と同様、労働分配率もデフレの影響によって下落しています」と口にする。

「デフレ下では、リーマンショックやコロナショックのような世界経済を揺るがす大事件が起きることを警戒し、企業は人材や設備などに投資することに後ろ向きになり、内部留保に回さざるを得なくなります。

 また、先述した通り、デフレが続くと消費行動が抑制されるため、現在に至るまで企業間の価格競争が激化してきました。その結果、企業は出費を極限まで切り詰めるべく、人件費削減を真っ先に行ってきたため、実質賃金が下がり続けているのです。それが労働分配率の下落につながっています」

“株主重視”の政策で実質賃金が犠牲に

藤井聡氏

藤井聡氏

「ただし労働分配率が下がり続けている原因はデフレだけでなく“株主配当金の増加”も挙げられます。会社法の度重なる改正に伴い、経営者の影響力が下がる一方で、株主の影響力が相対的に高まった結果、株主に過剰な配当金を支払う圧力が企業にかかるようになりました。恐ろしいことに、株主の配当金を捻出するために、実質賃金を減らしている企業も少なくありません」

 デフレ下では企業が消極的にならざるを得なく、そのシワ寄せが従業員に行っている。そのうえ、“株主重視”の政策が進められ、「株主を豊かにするために実質賃金が犠牲になっている」とも話す。企業は利益を従業員に還元していないのではなく、還元したくてもできない背景があり、安易な企業批判は本質を見失わせるリスクがある。

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