ソフトバンク元社員逮捕。退職する会社のデータ持ち出しは、どこまで許されるのか
故意でなくても損害賠償を負う可能性
では、誤って持ち出してしまった場合はどうなるのでしょうか。退職後に自身のパソコンやスマホに前職のデータが入ったままだった、というケースは十分に考えられます。
「秘密情報を本当に無意識に持ち出してしまったのなら、不正競争防止法に定める刑事罰にはあたりません。刑事罰を科すには、原則として自分が罪になる行為を行っているという『故意』が必要になります。また、秘密情報の不正取得に関する罪に該当するには『不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的』も必要です。秘密情報を誤って持ち出してしまったという『過失』の場合は、不正競争防止法における民事上の責任、つまり損害賠償責任を負う可能性があります」
自分が所有する端末に営業秘密データが入っていない場合でも、退職後にその会社の営業秘密が入ったクラウドサービス(Googleクラウド、OneDrive、Dropboxなど)にアクセス・閲覧できてしまうケースもあるのではないだろうか。
「その場合も、罪に問われる可能性があります。退職した従業員は、会社のクラウドサービスにアクセスする権限がなくなるからです。その状態でクラウドサービスにアクセスすると、態様によっては不正アクセス禁止法などに違反する可能性も考えられます」
退職した会社のデータは、すぐ削除するべき
退職した会社のデータをどのように取得し、どのように使うと罪に問われるのでしょう。例えば、見ただけではマネできないような情報を、参考程度に転職先の同僚に“見せるだけ”では?
「秘密情報は原則として『不正の利益を得る目的、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的』で取得・使用した場合に、不正競争防止法の刑事罰に問われます。したがって、単に“見せるだけ”であれば、刑事罰に問われる可能性は低いでしょう」
一方で、前の会社の秘密情報を転職先で使用して自らの評価を上げようとし、昇給や昇進を狙おうとするような場合、あるいは当該秘密情報を漏えいさせて前の会社を困らせようとする場合には「刑事罰に問われる可能性があります」と、後藤弁護士は語る。
「そもそも転職先に持ち込む以前に、退職した会社の秘密情報に関する資料などを所持している時点で、前の会社との関係では守秘義務違反に問われる恐れもあり、損害賠償責任を負う可能性もあります。したがって、退職後はそのようなデータを即座に処分するのが望ましいでしょう」