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元TBSアナウンサーが「戦争歴史の記録者」に。意外な転身のきっかけ

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アナウンサーに戻っても「後戻りの感覚はない」

久保田智子

現代の私たちが、かつての文脈と今の文脈の溝を埋められるかもしれない

 その気づきが、伝承者としての役割を再認識させた。

「被爆者の方は『原爆は熱かった』と言っています。私たちの想像する『熱い』は、せいぜい沸騰したお湯程度。しかし、原爆は数千度に達する灼熱でした。そこはきちんと想像を促さないといけません。当時を知るご本人には当たり前で説明しづらいかも知れないことでも、現代の当たり前の中で生きる私たちなら、かつての文脈と今の文脈の溝を埋めることができるかもしれない。当時と現在では感覚が違うので、話の『文脈』まで伝えることでひとつの言葉からでもより深い学びが生まれると気が付きました」

 オーラルヒストリーの聞き手として精力的に活動する久保田さんだが、かつてのように再びメディアで活動することはないのだろうか。

「そんなことはありませんよ。昨年8月にはTBSラジオ『荻上チキSession-22』の特集『戦争の記憶の継承~家族が引き継ぐ沖縄戦オーラルヒストリー』に出演させてもらいました。キャスターでも何でもお話をいただければ、やりたいです。メディアはいかにシンプルに、コンパクトに伝えるかですが、複雑さを大切にするオーラルヒストリーを経験したことで、またアナウンサーに戻っても見え方や感じ方は変わったはず。後戻りする感覚はないと思います」

⇒インタビュー後編<元TBSアナ久保田智子さんが後悔する「女子アナの#Me Too」と、報道のあり方>に続く

<取材・文・撮影/中野龍>

【久保田智子(くぼた・ともこ)】
1977年横浜生まれ。中高時代を広島で過ごす。東京外国語大学を卒業後、2000年TBSにアナウンサー職入社。『NEWS23』『朝ズバッ!』などを担当したほか、報道記者としても勤務。2017年に退社し、現在はフリーアナウンサー、オーラルヒストリー研究者、被爆体験伝承者として活動

1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、化学工業日報記者などを経てフリーランス。通信社で俳優インタビューを担当するほか、ウェブメディア、週刊誌等に寄稿

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