S・ジョブズが「生涯の師」と仰いだ日本人僧侶の“破天荒な”正体
実際に坐禅を組んでみる?
――実際に坐禅を組んでみるのはどうでしょうか?
柳田:とてもよいと思いますよ。私も、この本をきっかけに坐禅を始めました。で、坐禅を体験してみると、次々に考えが襲ってきて困りました。でも、ある時、あるお坊さんが、こうおっしゃったんです。
「考えを止めなくていいんです。大河のイメージで。大河は、一見止まっているように見えて、実際には滔々と流れている。頭に浮かんだ考えにしがみつかず、かといって、ムリやり追い払いもせず、自然に流せばいいのです」
これで、気持ちが楽になりました。日常に時折、「大河的時間」を持つって素晴らしいことです。とはいえ、私の脳内は、今だって大河からはほど遠いですけれど(笑)。アメリカでは、マインドフルネスが人気で、その流れで禅や瞑想にも注目が集まっています。マインドフルネスには、目的を達成するために瞑想するといった側面もありますが、弘文やジョブズが実践した曹洞宗の坐禅は、「只管打坐(しかんたざ)」といって、目的なんか持たないで「ただただ坐る」。何かを得るために坐るのではないんです。日本曹洞宗の開祖、道元は「放てば手にみてり」と語っていますが、目的を握りしめてしまうと、結局、目的を果たせないんですね。
日本だと、坐禅は1回だいたい40分。1本のろうそくが燃え尽きるまで行うので、「炷(ちゅう)」という単位で数えます。でも、欧米では、一炷が20分という坐禅会も多い。40分だと気が重くても、20分ならやってみようって気になりませんか? まずは、試しに15分やってみるのもいいと思います。
【柳田由紀子】
1963年、東京生まれ。1985年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業後、新潮社入社。月刊「03」「SINRA」「芸術新潮」の編集に携わる。1998年、スタンフォード大学他でジャーナリズムを学ぶ。2001年、渡米。現在、アメリカ人の夫とロサンゼルス郊外に暮らす。著書に『二世兵士 激戦の記録』(新潮新書)、翻訳書に『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(集英社インターナショナル)など
<取材・文/詠シルバー祐真>