「警察官をクビになった」著者に聞く、壮絶ないじめ体験から立ち直るまで
執筆期間は他の仕事を断っていた
――ご自身が素直な気持ちをぶつけている反動から、悩みを吐露される機会もあるのでしょうか?
ハルオサン:しょっちゅうです。警察関係に限らず、公務員として誰かに尽くす仕事に関わっている方からの問い合わせが目立つかもしれません。
自分が味わってきたような閉鎖的で特殊な文化のある環境でパワハラに遭っている人であったり、身近な誰かに愚痴を吐いても「立派な仕事なんだから仕方ない。苦しいのは当然でしょ?」と、いなされてしまうといった声もよく届きます。
――書籍『警察官をクビになった話』では、警察学校で教官に追い詰められる中でのさまざまなトラウマが描かれていますが、執筆にあたり振り返るのは苦しかったのではないでしょうか?
ハルオサン:30代になったとはいえ、18歳当時の経験を思い出すのはかなり辛かったです。現在に至るまで、さまざまな仕事へ就いてきたことで忘れられるようにはなっていたのですが、当時を思い出しながら描き続けているうちは、やはり感覚が蘇ってきて眠れなかったり、食事ものどを通らなくなる瞬間もありました。
だから、実際に執筆していた1年間は、他の仕事をすべて断っていましたね。
数年前までは「殺したかった」
――出版以降、読者からの反響はいかがでしょうか?
ハルオサン:警察学校での経験を通して伝えたかった、全体主義的な意識への問題提起に反応してくれる方もいました。周りにある多数の意見に何となく従ってしまう空気は、学校でも会社でもありうると思いますが、その危険性について共感してくれた人たちがいたのは心に残りました。
――書籍では、ハルオサンをはじめとする警察学校の生徒たちが教官から「バカだ無能だ」とののしられ、ときには殴られる場面も描かれています。もし今、当時の教官と道ばたで出くわしたら、何かぶつけたい気持ちはありますか?
ハルオサン:数年前までは正直、殺してやろうかと思っていました。じつは、警察学校を退学する直前に、まもなく定年を控えていた担当教官から「オレもお前のように辞めて、どこかで農家としてのんびりするから」と言っていたので、探し出して問い詰めてやろうかと一時期は考えていましたね。
でも、今ではもうなくなりました。たぶん、工場作業員として働きながらも、骨折をした経験が転機になったのかもしれません。それまでは「一所懸命働いてまわりに認めてもらおう」と必死になっていたんですけど、首の骨が変形して寝たきりの状態になったことで世の中との接点がなくなり、気持ちがスッと吹っ切れたんですよ。
事実上、死んだようなものになったので「自分の人生を歩もう」と思えたし、教官に対しても許せるとは違うけど、どうでもよくなった気がします。