非FIFA加盟国による“もう1つのW杯”を現地ルポ
スタジアムの様子を見て回っていると、いつの間にかアブハジアvsカルパタリャ戦試合開始1時間前です。アブハジアのサポーターの数は数十人。
大会へのメディアの注目度が高かったようで、アブハジアサポーターの数名が複数のメディアからインタビューを受けていました。
応援スタイルは旗や太鼓、拡声器を使ってのもので、熱い応援を繰り広げました。他の観客もそれに手拍子を送ります。
ただ、残念ながらカルパタリャのサポーターは見掛けませんでした。会場のどこかにはいたのかもしれませんが、集団で応援しているところは見つけられなかったです……。
絶対に負けられない戦いが「もう一つ」そこにはある!? 試合は序盤から予想外の展開に!
いよいよ試合です。前回王者アブハジア相手に前半、カルパタリャがまさかの先制ゴール。
その後はお互い決定機を作りゴールに迫る緊迫した試合展開となるもののシュートがことごとくポストやバーを叩き、後半に入っても途中まで一進一退の攻防が続きます。
観客側はビールを片手に観戦している観客も多く、サッカーをつまみにビールを飲む、という感覚で観戦している人もいたのではないでしょうか。
1-0から攻防が続いた状態でしたが、後半途中からカルパタリャペースとなり、終了間際に決定的となる追加点を入れ2-0でカルパタリャが前回王者を破る勝利となりました。
試合後はカルパタリャの選手、アブハジアの選手ともに、観客から大きな歓声を受けていました。
今回はロンドン開催ということもありお祭りの雰囲気もあるようで、ツバル、カタルーニャ、ウガンダのシャツを着た3人組や、Enfield town FCのユニフォームを着た地元の人たち、さらににはスタッフも試合展開に一喜一憂し試合後には惜しみない拍手を送っていました。
目の前のサッカーを楽しむ、という点でスタジアム全体が同じ時間を共有できていたのが印象的で、結果に関わらず観客全員が笑顔でした。
ロンドンは多くのマイノリティが移民として移り住んでいることもあり、どの試合でも多くのサポーターが集まっているようです。
試合の結果に関わらず観客全員が笑顔
前回のアブハジア大会と異なり、ロンドンはサッカーが盛んな場所なので、普段国際大会が開催されない場所でやる、というメリットはありません。しかし、先進国での開催はマイノリティの存在を知らせるという意味では大きな効果があります。
事前の練習試合では現地のクラブと対戦し、クラブのSNSで大会の存在や出場国についての情報が拡散されました。また、今回の出場国を紹介する映画をロンドン市内の映画館で上映しており、試合のチケットを持っていれば無料で観賞できるようです。
私は予定が合わず観ることはできませんでしたが、日本から今大会に出場している在日コリアン代表や、同じくCONIFAに加盟している琉球代表の映画もありました。
同日夕方、FIFAのワールドカップに出場するイングランド代表戦(対ナイジェリア)も観戦しましたが、イングランドとナイジェリア、どちらもワールドカップに出場するチームの親善試合です。
入場者数は7万人強で、私が観戦したCONIFAの試合と約100倍の開きがあります。しかしスタジアムの雰囲気や大会の意義を考えると、CONIFAもイングランド代表戦に負けないものがあると感じます。
国単位では測れない民族が世界中に存在する
CONIFA加盟国の中には、独立を目指す民族もあれば目指さない民族もあります。
マイノリティが注目されるのは、ミャンマーのロヒンギャ族のような迫害、またはウクライナのクリミア問題のような紛争が起きたときばかりで、ネガティブなイメージが付いて回ります。
しかしそれらは政治的な側面から見た部分だけなのです。
一番大事なのは、そこにマイノリティが存在する、ということ。CONIFA加盟やワールドカップ出場は、自民族の存在を証明する手段のひとつなのです。
日本はほぼ単一民族国家なので、マイノリティ=少数民族に触れる機会が少ない国だと言えるでしょう。
どのように考えるかは人それぞれですが、国単位では測れない民族が世界中に存在するということを、CONIFAワールドカップの様子をお伝えすることで認識してもらえれば、嬉しい限りです。
<取材・文/的場雄一郎>