キリン「本麒麟」開発部門責任者が語る、大ヒットの理由と美味しい飲み方
キリンビール、アサヒビール、サントリービール、サッポロビールなど大手各社が熾烈な競争を繰り広げるビール市場。なかでも「第3のビール」と呼ばれる価格帯の安いジャンルでは、興味深い現象が起きている。
キリンビールの「本麒麟」は、2018年3月に発売されてから3か月で販売数1億本を突破。以後も好調な売れ行きを見せ、2年目の今年は全ての月で昨年を上回る販売実績を上げているのだ。
さらに、世界5大ビール審査会の1つである「インターナショナル・ビアカップ2018年」での金賞受賞を皮切りに、「メルボルンインターナショナルビアコンペティション」や「モンドセレクション」でも金賞を獲得し、同社史上初の金賞三冠に選ばれた。
国内外から高い評価を得る本麒麟は、なぜこれほどまでに快挙を成し遂げるブランドへと成長したのか。キリンビールのマスターブリュワー(醸造責任者)を務める田山智広氏に、本麒麟が大ヒットした理由や美味しい飲み方について伺った。
時代に求められる「美味しさ」
まず、「味の番人」としてお客様に支持される商品を生み出し続ける秘訣について、田山氏に伺った。
「美味しい商品とヒット商品は必ずしも一緒ではない。前提として美味しさは『主観的』であることを理解する必要がある。美味しいと感じるものは人それぞれ違うので、捉えどころのない曖昧なものに対して、どこまで追求し科学するかが味作りにおいて大切なこと。曖昧だからと、『美味しさが分かる人が分かればいい』と考えては独りよがりの商品しか生み出せない。お客様は何を求めているのか、どんな味であれば喜んでもらえるのか。常にお客様のインサイト(本音)に寄り添えるような商品を出そうと意識している」
ビール類の主飲層である40~50代のみならず、20~30代にも本麒麟が愛飲されているのは、味だけでなく口コミしたくなるパッケージや、変化する消費志向のニーズを的確に捉えることができたからだという。
「時代によってライフスタイルや価値観は変わってくる。『その時、その瞬間に求められる味は何か』を、常に念頭に置きながら商品開発をしている。流行り廃りがある中で、昔は食の味付けが濃かったのに対し、今ではヘルシー志向から塩分控えめの味付けが一般的。味覚の変化に合わせて、ビールに求められる味を決めていくことで、消費者のニーズに応えられる商品が生み出せると考えている」
ヒット商品に「首尾一貫」しているもの
「また、味だけではなく店頭で見かけたときに『自分に向いた商品だな』と思ってもらえるかも大事。パッケージを見て瞬時にそう思えないと、なかなか手に取ってもらえない。飲む前の商品全体の設計から店頭やWeb、TVなどの広告に至るまで、何となく気になる商品として訴求し、まずは飲んでもらう。
そして、納得感ある味だと確信すれば、リピートして購入するようになっていく。世の中に受け入れられるヒット商品は『ネーミング』と『パッケージ』と『味』とが首尾一貫している」
本麒麟というネーミングは、ただ単に出した商品ではなく、伝統やクラフトマンシップの精神を貫いた「本気度」が伝わるような印象を受ける。また、パッケージはコーポレートカラーの赤を基調にしていて、真紅=本物の味と捉えることもできるだろう。
「変にヒットを意識して奇抜にしたり、キャッチーなネーミングにしたりと変化球を意識せず、直球で伝えたことが功を奏し、幅広い層に支持されるようになった」と田山氏は語る。
新ジャンルというカテゴリー自体のイメージを変え、本麒麟独自の訴求力が大ヒットを生むきっかけとなり、ひいては金賞三冠に輝くまで評価されるようになったのではないだろうか。