「社員をボロボロにする会社とは」成長企業の闇を山本一郎氏・常見陽平氏が斬る
500万円で血へどを吐かされる会社が多い
山本:グーグルみたいに年収数千万円なら血へどを吐きながら働くのもまだわかるけど、500万円で血へどを吐かされる会社が多いのが現実。僕らが若い頃って、稼ぎたきゃ佐川急便で働けっていう風潮があったじゃないですか。それが一段落すると光通信になって。
常見:あった、あった。
山本:当時は汗水垂らして働けば歩合が良くて稼げるっていう世界があったけど、今は報われないのに長時間働く職場が増えて、救いがないなって思いますね。
常見:キツいのに報われない典型が、かんぽ生命のような高すぎる経営目標です。厳しすぎて、詐欺まがいのことをしちゃうわけで。
山本:他にも、かぼちゃの馬車事件のスルガ銀行、大東建託、オープンハウス……。みんな大変。
常見:僕は調査がてら20年近く就職ナビサイトに登録しているのですが、企業から「初年度から27万円稼げる!」というアヤシイDMが届くんです。それに乗っちゃう学生もいます。建売住宅の業界なんて、市場が縮小しているのに、伸びている会社はそりゃあ無理してるよって話ですよね。
山本:建売住宅なんて見込み客を把握するところから結構大変ですからね。実際、エリア担当によるポスティングという“自力DM”みたいな方法で探るわけですよね。そこから、財布を握っているお母さん側を狙えみたいな。最初はそれなりに研修や教育もあるから、こういう営業手法で成績が伸びる。でもそれって、いい客がつかまれば50万円稼げるかもだけど、来年も再来年もいい客をつかまえ続けられるかというとねえ?
常見:思ってる成長と実態は違うんですよね。
カリスマがやりがい搾取をする
山本:その一方で、ブラックのイメージが薄い大企業でも、コストの問題で設備に投資できない場合もあると思います。大幅な人員削減をした大手メーカーのように、本来はもっと減らさないといけない状況でも社員を温存している企業なんかだと、1人あたりにかけられるコストは必然的に少なくなります。設備をケチりすぎて、硬いイスになっちゃうとかね。
常見:あとは、カリスマ経営者が現場からやりがい搾取をしているパターンもありますよね。
山本:確かに。クリエイター系のカリスマ経営者のところは、トップに憧れて入ってきた下の人間は死ぬほど働かされて、自分のアイデアを使われてもクレジットが出ないとか。デジタルアートで有名な会社とかアニメ会社とかもそうだけど、悲惨な現場はたくさんある。
うまくいってるのって、ゴルゴ13のさいとうプロくらいなんじゃないかな?(笑)あ、あとジブリは、超過酷だけど儲かったお金を社員に分配していたから偉かった。上も「この期間は大詰めだから帰れないよ」って現場に修羅場を公言して、言った当人も本当に帰らないっていうからね。マネジメントとしてはきわどい。
常見:NHKのドキュメンタリーでも、黒いシーンが放送されていましたね(笑)。連絡を取るたびに担当者が違う、つまり人が相当入れ替わっている会社もあるし、経営者に憧れて入社するのは本当に気をつけたほうがいい。あと、テレ東の経済ドキュメンタリーで紹介されそうな企業もね(笑)。
山本:(笑)。会社のルールでいうと、革靴の強制もつらい。革靴でずっと外回りをしていると腰を痛めるんですよ。職業病だけど、会社は保証してくれない。
常見:良い運動する時間があるかとか、まともな食生活が送れるとか、健康的な生活ができるかどうかの意識って大事ですよね。
【常見陽平】
働き方評論家/千葉商科大学国際教養学部専任講師。リクルート、バンダイなどを経て現職。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)ほか
【山本一郎】
投資家・作家/情報法制研究所事務局次長および上席研究員として、さまざまな社会調査を行う。著書に『ズレずに生き抜く』(文藝春秋)ほか多数
<取材・文/週刊SPA!編集部>