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東大中退ラッパーが体験した「救急患者 2時間たらい回し」の実態

コラム

たらい回し経験者から見た“根本的な原因”

――ダースさんが実際に経験した「たらい回し」のケースについて、根本的な原因はどのように考えますか?

ダースレイダー:縦割りで自分の担当の領域以外のことはみんなやらないっていうか、できないようになっているから「担当の人がいないから受け入れられない」というケースが多くなっちゃう訳ですよね。

――たらい回しという言葉が認知され始めたきっかけに、2006年に起きた大淀町立大病院事件があるようです。出産中だった32歳の女性が脳出血を起こし、搬送先の病院で出産後に死亡。事件の2か月後に毎日新聞がスクープしたことで表面化した事件です。

ダースレイダー:それって、スクープされなかったら表面化しなかったということですよね。ということは、うちうちでは当たり前のようにやっていたことだと思うし、ある種システム的になっちゃっているんでしょうね。

 ただ、受け入れ側の気持ちも僕はわかる。大きな責任も伴うし、安請け合いするものではないのはもちろんわかるんですけど、ただ現状そういうこと(救急要請)は起こるし、人はケガもするし、病気もひどくなるしってのを前提として人を揃えていかないといけないから。あとは、いたずらも含めて、何でもないのに救急車呼んじゃったりする人がいる。そういったことって、これだけ救急隊員がギリギリのところで連絡とか対応してくれている現場を間近で見ると、本当にやってはいけないことだと思う。

 今回、救急車はたったの5分で来てくれたけど、これって並大抵なことじゃない。常に緊張した状態でスタンバってないといけないし。僕は救急車に3回お世話になっているけど、3回とも7分以内で来てくれました。

 そのあと、病院がスムーズに受け入れてくれれば、7分以内に来た意味があるわけじゃないですか。結局それから1時間かかっちゃうと、「急いで来た意味なくない?」ってなるから、そこはちゃんと連携してほしい。

“主治医との関係”の重要性

患者の症状を聞く医者

――これから少子高齢化が進むと、この問題も深刻になりますよね。今の日本人の中央年齢は45歳を超えているとか。

ダースレイダー:65歳以上が占める割合は日本が世界1位。高齢化が進めば、救急車を呼ぶ人も増えていく一方なわけで。僕は妻がいたから良かったけど、一人暮らしで、油断したら誰も助けてくれないような人も多いですよね。

――そんな中で、これを読んでいる人がもし急に具合が悪くなったりしたとき、いちはやく医療機関と繋がるにはどうしたらいいと考えますか?

ダースレイダー:主治医とすぐに連絡が取れる関係性を築くことじゃないでしょうか。僕はちょうどそれまでを診てくれていた人が病院を辞めちゃって、主治医が不在の時期でした。いま診てくれている先生は「24時間、誰かしら対応するから何かあったら連絡ください」って言ってくれてるので、そういった人と関係性を築けるかが大切です。

まだまだ不十分な、救急でのIT活用

――今回の出来事で、救急搬送のシステム的にどのような課題を感じましたか?

ダースレイダー:あるエリアで病院が5か所あって、それぞれが連携していれば、「どっかの病院の内科の先生が休みのときは、近所のこの病院にはいるようにする」みたいなことができるんじゃないかなって思いました。

 自分の病院の中だけでシフトを決めるのではなく、その地域で必ず救急対応できる内科の人が何人いる、外科の人が何人いるって状況を作っておけば、医者が足りなくなるってことは実はないのかなと。縦割りになっているのを、もっと横の軸で、「この地区の内科はこことここにいます」と分かるようにしてくれれば、もっとスムーズになると思う。

 それをクラウドで情報共有して、インターネットで見ることが出来たら、対応できる医者がいないところや、ベッドが満床のところにわざわざ電話する必要がなくなるし。地域の全部の病院で受け入れてもらえないっていう状況を作らないためには、まずは情報共有が必要。それこそ、IT化をもっと進めてほしいところですよね。

<構成/鴨居理子 撮影/山口康仁>

1977年パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、ラップ活動に傾倒し中退。2010年6⽉に脳梗塞で倒れ合併症で左⽬を失明するも、現在は司会や執筆と様々な活動を続けている。

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