大英博物館「マンガ展」はこうして実現した。性的表現も議論に
どこまで性的表現を含めるかも議論に
――どのような声がありましたか?
内田:若い子が多かったですが、その子たちは「マンガは知っているし、読む」と言うんです。でもよく聞くとマンガとアニメの違いがよくわからないとか、『DRAGON BALL』は知っていてもそのマンガ家の名前は知らなかったり。その時には、展示の中でどこまでセクシャルなものを含めようかいうことも決まっていませんでした。
でも日本のマンガにはそういう部分もあるので、正直に見せようって考えている時だったんですよ。それでテストしてみようと、性的表現があるシーンを見せて「こういうのもマンガだけど知ってた?」「こういうのも含めるべきだとと思う?」って聞いたら、結構「もしもそれがマンガだったらあったほうがいい」という意見がありました。
結局、内部でも検討を重ねて、最終的には子どももいるし、あまり激しい、いわゆる大人のエロマンガは入っていませんが、BL(ボーイズ・ラブ)は入れたかった。一方で「女同士の作品がないのは差別じゃないですか?」という意見もありましたね。
――BLと百合もの(女同士のラブもの)ではジャンルの大きさが違うので、無理ないと思いますが……実際の展示はどうやって決めていくのでしょうか。
内田:展示会を開催するに当たり、学芸チーム(キュレーター)のほか、施工担当、デザイン担当、観客の理解度を高めるためにどんな展示にしたらいいかを決めるinterpretation(解釈)や、マーケティング部もあります。
こうしたいろいろな部と一緒に作って行くんです。キュレーターはコンセプトやたたき台になる案、作品リストを作ります。それを基に展示のスペースやケースを考えながら「(スペースがないので)すべては入れることができないので、何かを減らさなくてはならない」といったことを何度も何度も繰り返していきました。
展示する作品を決めて、出版社に交渉
内田:入場者が1つの作品をどのくらいの時間をかけて観るかも計算して、基準があるんです。混んできたら危なくなるから、何分以上ここに立たないようにとか博物館の中でシミュレーションしてあります。ですから、ループ上映する映像も長さに制限があります。
あまりに来場者が監視員や会場のキャパシティを超えると、作品にとってもビジターにとっても良くないですし、消防法もあります。1日の販売チケット数も決まっています。その人たちがだいたい1時間で全部を観られるぐらいの量にしなくてはいけないこともあって、展示できる作品数が制限された結果、今の数になりました。
――展示する作品が決まったら、あとは借りに行くわけですよね。
内田:そうですね。大英博物館は、美術品を博物館や美術館から借りるのは経験がありますが、これほど多数の出版社から作品を借りた経験がほとんどないので、最初のうちは作法が分からなくてとてもご迷惑をおかけしたと思います。
個人的な事情から出展を断られた先生も何人かいらっしゃいました。「原画を手離すのは嫌だ」「忙しくて原稿を探している暇がない」「原画は展示するものではなくて実際にマンガにして見てもらうものなので」とおっしゃる先生もいらっしゃいました。