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『べしゃり暮らし』演出の劇団ひとり、不遇を乗り越えた独自のスタイル

暮らし

キス我慢選手権でブレイク。小説家デビューも

 すでに業界内では実力を認められていた劇団ひとりさん。その存在が広く世間に知れ渡ったのは、なんと言ってもバラエティ番組『ゴットタン』(テレビ東京系)の企画「キス我慢選手権」からでしょう。

 2005年の企画のスタート当初は、主にセクシー女優と2人のシチュエーションで“キスを我慢する”というシンプルなものでした。ところが、劇団ひとりさんの演技力によって企画そのものが大きく変化。キスを誘発するイチャイチャのシーンから、思わぬアドリブによってドラマチックな展開に。最終的に号泣しながらキスを我慢するという映像が視聴者の心を掴み、2度も映画化されるまでになりました。

 2006年には、群像小説『陰日向に咲く』(幻冬舎)で作家デビュー。今でこそ珍しくありませんが、小説を書く芸人の第一人者となりました。その後、2010年に『青天の霹靂』(幻冬舎)を上梓。2014年には同名の映画で初監督を務め、「第6回TAMA映画賞」で最優秀新進監督賞を受賞するなど、高い評価を得ることになりました。

劇団ひとりが多方面で活躍する理由

劇団ひとり

『陰日向に咲く』(幻冬舎文庫)

 多方面で才能を発揮する劇団ひとりさんですが、なぜここまで注目を浴びるようになったのでしょうか。お笑い芸人を長く取材する、あるライターはこう語ります。

「2000年代、同期の有吉弘行をはじめ、正攻法でブレイクできなかった芸人はたくさんいます。有吉なら有名人にあだ名をつける芸、劇団ひとりなら“泣き芸”で見せ場をつくるなど、よほどの工夫がなければ番組に呼ばれなかった。そこで試行錯誤した経験が、今のスタイルにつながっているのは間違いないでしょう」

 映画監督デビューは、あこがれの存在・ビートたけしさんの後押しを受けて決めたという劇団ひとりさん。自分のイメージする芸人になれなかった、というコンプレックスがどこかにあったのかもしれません。

 とはいえ、下積み時代に培った演技力とネタの切り口は、現在の活躍へと着実に実を結びました。ドラマ演出家としても高く評価されているのは、若手の頃に感じた苦汁の“生々しさ”を、人一倍理解していることも大きいのではないでしょうか。

<TEXT/鈴木旭>

フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中

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