「思い通りにいかない…」新社会人の悩みに答える芥川賞受賞作4選
かつて「世界一即戦力な男」と呼ばれた男、菊池良さん。
ベンチャーのweb制作会社から、ヤフーに転職し、ヤフーを飛び出したあとは「在野の物書き」として活躍する。自ら「会社をやめるきっかけとなった」と語る、新刊『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)を上梓したばかりだ。
菊池氏が会社を辞めるまでの経緯を聞いた前回の記事に続き、今回はその新刊について話を聞いた。
芥川賞を全部読んでわかったこと
――菊池さんは、芥川賞作品を全部読んでわかったのが、「みんな文学に人生を捧げている」ということですよね。なぜそう思ったんですか?
菊池良(以下、菊池):芥川賞全集に作者の年表もついているんですね。それを見ていると、人生の大部分を創作活動に当てているので。たまに、電通の人とか、会社員も創作も成功している人はいるんですが、だいたいの人は文学に人生の基準を置いてやっている。
物心ついた頃から文学に意識が向いている人が多い気がして、僕はそれはできていないので、今から芥川賞を目指しても無理だろうなと思いました(笑)。
――選評を読んでて、面白かったものってありますか?
菊池:川端康成が、『太陽の季節』を推しているんですよね。「ほかに推したいものがないから、この作品が受賞でいいと思う」と。で、「僕はこういう新人を褒めるのが大好きなんだ」とも(笑)。石原慎太郎のことを褒めているわけですよね。それがすごく意外で、そのほかにも、この人がこの人を褒めているんだ、という発見が結構ありました。
芥川賞の選考委員って、常に大御所の作家なんですよ。評論家は一切入れないから、作家さんの好みがすごく出るんです。今なら倫理的にアウトな受賞作もありますし、その時代時代の個性をすくい取って選んでいるんだと思います。
新社会人におすすめの芥川賞作品『終の住処』
――新社会人向けの受賞作があるということで、それを教えていただければと。
菊池:『終の住処』ですかね。これはサラリーマンの話で、会社で働いている男が浮気をしていて、妻とはもう関係が切れているので別れ話をしようと思い、ホテルのロビーに行くと、妻から妊娠を告げられて。もう夫婦生活を終えるつもりだったけれど、そこから何十年も流されて続けていく、そういう話です。人生って、そういう感じじゃないですか。
――すべて思い通りには行きませんよね。
菊池:急な何かがあって、それに流されて紆余曲折を生きていく。その壮絶さというか、地味なすごさを感じる小説で、人生における「忍耐」的なものを疑似体験できる良い小説だと思います。長い人生にどう折り合いをつけて生きていくか。
――菊池さんもそういう実感はありました?
菊池:ばっちり同じ心境ですよ。サラリーマンの主人公と。僕は会社員として長くやっていこうと思っていたんですけど、芥川賞を全部読まなければいけないとなって、ルートが変わったわけですから。そもそもこれは新社会人にとって、自分の第一希望じゃないところに入ることになる、いきたくなかった部署に配属される、みたいなことと重なると思っていて。
僕も、大学卒業してLIG(菊池氏が勤務していたWeb制作会社)に入るとは思ってなかったですから(笑)。逆就活サイトをやるまでまったく考えてなかったんですけど、それを受け入れる強さがあったほうが、人生ってやっていけると思うんですよね。状況に流されていく体力というか。
というのはポジティブな受け身、全部を受け入れてみる。それで僕は、それを受け入れてみたら、LIGは楽しかったですし、今でもすごく好きです。