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メルカリで本を売る人が知らない「価値」とは?ベストセラー著者に聞く

コラム

買って読んだ本をすぐに売れる感覚はわからない

――それはたしかに著者としては複雑ですね。

岸見:メルカリで本を売るタイプの人は「役立つ本」を求めているんじゃないでしょうかね。本を手元に置いておきたいという経験がない人なのかもしれません。

 僕は図書館も利用しません。返さないといけないからです。僕が借りる本は他に誰も借りないような本なので、少し離れた場所に書斎があると考えたらいいのでしょうけど。

 ずっと手元に本を置きたいと思いますし、読みたい時に手元になくて困ることがよくありますから、買って読んだ本をすぐに売れるという感覚は僕にはわからないです。以前からブックオフもあったわけで、特に新しい現象ではないと思います。

――勝間さんとは違った視点で、本を売ることにモヤモヤしたものがあるということですね。

岸見:この問題に対して著者が出来ることは、売りたくならない、ずっと手元に置いておきたい本を書く。これくらいしか防衛方法はないよね。著者としては安直に売られるような本を書いてはいけない。

本の世界にサードプレイスを見つける

積み重なった古い本

――20代ビジネスパーソンに向けたメッセージをお願いします。

岸見:「現実に出会う人よりも、本の中で出会う人のほうが面白い」と知ってほしい。僕は出かけるときはカバンに絶対本を持って行きます。手ぶらで出かけることはありません。最近は電子書籍もあるので、それ一冊(というのでしょうかね)を持ち歩ければ、数年間読めます。

 待ち合わせ場所にいって相手が一時間遅刻することになっても、相手が来るまで一時間読書すればこれから会う人よりも、著者と過ごす時間のほうがはるかに楽しかったりするものです。

 それと現実で対人関係に悩んでいる人が、著者が自分の理解者なのだと気づく経験をしてほしい。別に現実逃避ではなくて、本の中にもうひとつの世界がある。くつろげる、ほっと出来る場所がある。若い人の現実がどれだけ忙しくても、ツラくても、本を読めば現実とは違う世界がそこにある。それが幸せにつながっていくのではないかと思います。

<取材・文/栗林篤>

【岸見一郎】
哲学者。1956年京都府生まれ。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。専門の哲学と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともに共著、ダイヤモンド社)はベストセラーに

元IT企業のサラリーマン。株主優待と家賃収入で細々と暮らすフリーライター。著書に『サラリーマンのままで副業1000万円』がある

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