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さんまも驚き。“元女性”の男芸人26歳に聞く半生は「恵まれすぎてるな」

暮らし

携帯電話から聞こえた父ちゃんの泣き声

前田かずのしん

前田さんは現在、noteにて、これまでの人生や考え方についての文章を更新中

――母は強しですね。父親のほうはどうだったんですか?

前田:父ちゃんはしばらくだんまりですよ。メールを送ってから2週間くらい経った頃ですかね、学校帰りに父ちゃんが車で迎えに来てくれたことがあったんです。その時の車内でやっと口を開いたんですけど、気持ちの整理がつかなかったみたいで。

 今考えたら、確かに父ちゃんが複雑なのも分かるんですよ。実はメールで「男になりたい」と、「芸人になりたい」というのをダブルカミングアウトしちゃったから(笑)。「どっちかにせぇよ!」って言われて。

 でも、大人になりきれない僕は「なんだよ、理解してくれてねぇじゃん」って思っちゃった。そこから、父ちゃんとはあんまりしゃべれなくなっちゃったんです。

――母親が寛大だった分の反動もあったのかもしれないですね。

前田:そんななか、長崎大学病院で診断を受けたらやっぱり性同一性障害だと。でも当時18歳だったので、男性ホルモン注射を打つには両親の同意書が必要だってことになり……ここで、また父ちゃんを頼らなきゃいけなくなったんですよね。

――今度こそ父親の理解がないと越えられない壁ですね。

前田:それでしばらくたって、その頃、もう僕は芸人を目指して東京にいたんですけど、ダメ元で父ちゃんに連絡してみようと。で、芸人としての近況を報告しつつ、「本格的に男になるための治療を始めることになった」みたいな話をしたら、携帯電話越しに父ちゃんの泣き声が聞こえて来て。

 僕の父ちゃんだから強いんですよ、熊本の九州男児で絶対に泣いたりしなかったし。たぶん、僕と会ってない間にいろいろ考えてくれてたんでしょうね。最終的には泣きながら「頑張れ!」って言ってくれて。例の同意書にもサインしてくれたんです。

「うちの両親、最高!」って思いました。そこからは、トントン拍子ですよ。恵まれすぎてるなって思いますね。

【インタビュー後半はこちら】⇒“元女性”の26歳男芸人・前田かずのしん「LGBTって言葉は好きじゃない」

【前田かずのしん】
1993年1月6日、熊本県生まれ。2016年1月に石本しょーきとお笑いコンビ、ペッパーボーイズを結成。戸籍を男に変更した「元女性」前田と、「ド天然ポンコツ男」石本のお笑い界唯一無二のコンビの一人として活躍中

<取材・文/鈴木旭 撮影/スギゾー。>

フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中

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