ISの性奴隷にされた女性が立ち上がった理由。『バハールの涙』監督に聞く
1月19日に公開された映画『バハールの涙』は、2014年8月3日に、ISがイラク北西部のシンジャル山岳地帯に侵攻し、住民の少数民族ヤズディ教徒を襲撃した事件をモチーフにした話題作です。
この事件では成人男性は全員殺され、7000人もの女性と子供たちは捕らわれました。クルド人自治区や前線へ自ら取材に赴き、数々の実話からこの映画を作り上げたのはフランスで活躍する女性監督エヴァ・ウッソン。
前作『青い欲動』(2015年)ではティーンエイジャーの性と青春を鮮やかなエロスで描いた監督が、なぜこの悲劇を映画にしたのか。電話でインタビューを行いました。
世界で起こっている紛争に目を開くべき
――監督はなぜこの映画を作りたかったのでしょう?
エヴァ・ウッソン監督(以下、ウッソン監督):中東やISの問題ひとつをとっても、「原因は1つだ」と多くの人は信じています。例えば、今起こっているイラクの内戦は2003年にアメリカが起こしたイラク戦争が火をつけたと思われがちですが、実はそうではなく、過去から現在まで連綿と続く、イスラム教シーア派とスンニ派の間の長い対立が激化したことから起こっています。
1978年のシーア派によるイラン革命、1980年のイラン=イラク戦争、1990年の湾岸戦争……。過去をよく知り、現在をよく注意して見ることが大切だという思いから、この映画を作りました。
――この作品は、女性戦闘員のバハールと戦場ジャーナリストのマチルドの2人の女性の視点を通して語られています。
ウッソン監督:マチルドは観客に代わり世界を客観的に見る目となります。「欧米の植民地政策が世界各地で起きている紛争の原因だから、欧米は中東の問題について口を出す権利がない」という意見をよく聞きますが、私はそう思いません。
もちろん植民地政策には反対ですが、世界の人々の声に耳を傾け、彼らを理解し、自分のなりのビジョンをもつことが大切なのでは? 2019年の現在、世界を100%正しく理解している人なんていません。間違っていても自分なりのビジョンをもとうとする努力が重要だと思います。
戦場ジャーナリストが命をかける理由
――マチルドは劇中、「人々は悲惨なニュースを聞きたくない。真実を伝える意味があるのかさえもわからない」と吐露しますが、映画監督として同じような迷いを感じたことはありますか?
ウッソン監督:もちろん! 実はこの映画を観た後も「女性戦闘員なんているはずがない」と主張する人たちが、少数ながらもいたんですよ。人は真実をつきつけられても、自分が見たくないことは見えないのでしょう。
――それでも、戦場ジャーナリストが命をかけてまで取材するのはなぜなのでしょう?
ウッソン監督:1年ほど戦場ジャーナリストを取材しましたが、彼らには「真実を伝えたい」という情熱がモチベーションの核にあって、そこに、危険な現場で感じる「生きている」という高揚感が加わり、戦場にいることが中毒になってしまうんです。いつも死を意識しているから、すべてが強烈なんですね。だから戦場ジャーナリストにとって、家族のいる平和な現実に戻るのは、とても難しい。
実際に私も前線に行ってものすごく怖い思いをしたんですが、2歳の子供がいる私でさえも、「前線で戦っている女性のことを世界に伝えたい」と心から感じました。戦場ジャーナリストがいなければ、私たちは世界で何が起こっているのか皆目分からず、よりよい未来を作ることができませんよね。彼らがいなければ、私たちは暗黒時代に逆戻りするでしょう。