ワインが苦手な若者向けお勧め銘柄は。成城石井のソムリエに学ぶワインと食べ物の「おいしい関係」
ワインは好きだろうか。ワインはおしゃれな飲み物だ。ワインに詳しければ、デートや飲み会でもスマートに振る舞える(かもしれない)。
ちょっとした集まりに手土産として、すてきなワインを見つくろって持参するすてきな大人になりたいと憧れる人も少なくないだろう。現に、ワインをオシャレに感じたり、大人っぽさを感じたりする若者が多いとの調査もある。
しかし、ワインの世界は奥深い。ジャズやクラシック音楽などと一緒で何から勉強していいのか見当もつかない。
さらに言えば、日本酒やウイスキーほどではないにせよ、格好つけて何度か過去に口にしたワインの味が本音では苦手という人も居るのではないか。
ワイン的な世界観に憧れはするけれどワイン自体が苦手という矛盾した感情を抱く初心者はどうすればいいのか。
そこで今回、ワインを飲むチャンスも増える年末年始に向け、多種多様なワインを取り扱う成城石井のソムリエ資格を持つバイヤーの下へ、フードライターの中山秀明さんを送り込み、ワインについてあれこれインタビューしてもらった。
テーマは、ワインの味が苦手な若者の初心者でも楽しめるワイン。
結果、出来上がったコンテンツは、ワインの銘柄情報にとどまらず、ワインに合わせる食べ物はどう考えればいいのかといったマリアージュ論やワインのうんちくなど、貴重な情報の宝庫となった。
その分、ちょっと長い文章になったが、ワイン初心者が頭に入れておくべき情報はほぼ出そろった感がある。ぜひ、最後までチェックしてもらいたい(以下、中山秀明さん寄稿)。
目次
赤ワインは黒ブドウから、白ワインは白ブドウから
「若者の酒離れ」とよく言われる。
とはいえ、酒が好きだったり、憧れたりする若い人だってたくさん居る。そんな酒の中でも、難解なイメージを持たれるカテゴリーがワインだろう。
しかしその分、知っていれば格好いいし、詳しくなりたいという人も少なくないはず。では、何から始めればいいのか――。
そんな疑問に対して今回は、多種多様なワインを取り扱う「成城石井」のソムリエ資格を持つバイヤーの長澤卓也さん(上の写真の左)と若林遼さん(右)にインタビューした。
商品本部商品部酒販課に属し、ワインを中心に買い付けを担当しながら、日本ソムリエ協会認定のソムリエでもある2人に、ワインとはそもそもどんなお酒で、何が味の違いを生むのか、エントリー層にお勧めのワインはどんな品種や銘柄なのかを聞いた。
まずは、極めて基本的な質問から始めてみた。ワインという酒の特徴や、味わいの個性は何によって生まれるのか。
「ワインは、主にブドウを醸造したお酒です。品種は、黒ブドウと白ブドウがあり、その中でも、さまざまな種類に分かれます。さらには、育つ地域の土壌や気候、造り手の考え方や熟成方法などによって味わいの個性が生まれます」(若林さん)
ワインの色は、特徴を端的に示す。代表的な赤ワインは黒ブドウから、白ワインは白ブドウから造られる。また、ピンクがかったロゼワインは黒ブドウを一般的に使うが、白ワインの製法で造られるため、赤と白の中間とも言える存在だ。
「それぞれの味わいを表すと、赤ワインは果汁の他、皮や種も使うため、それらに含まれるタンニン(ポリフェノールの一種)の渋みや豊かなボディ(飲みごたえ)が特徴です。
白ワインは、皮や種を取り除いて発酵させるため渋みはほぼなく、すっきりとした酸味が特徴となります。
ロゼワインは、味わい的にも、赤と白のいいとこ取りと言っていいでしょう。軽快な渋みや爽快(そうかい)な酸が特徴で、食事との相性が幅広い点も魅力です」(長澤さん)
近年人気が高まっているオレンジワインもある。ワイン発祥地とも言われるジョージア(ヨーロッパの国名で、かつてはグルジア)のアンバーワインがルーツだ。
こちらは、白ブドウを用いて赤ワインの製法で造る。いわば、ロゼの対極と言えるワインだ。味わい的には、こちらも赤と白のいいとこ取りだが、かんきつ的な香りや熟成感などがロゼと違って特徴である。
また、色とは別の軸に発泡の要素もワインにはある。いわゆる、スパークリングだ。スパークリングは、製法過程で炭酸ガスを付与させたタイプで、弾ける泡による爽快(そうかい)な口当たりが特徴だ。
なお、スパークリングワイン=シャンパンではない。シャンパンは、フランスのシャンパーニュ地方(フランス北東部)で特定の品種や製法で造られたスパークリングワインを言う。
国民性のイメージと各国のワインは印象が一致する
先ほどの若林さんの話の中に「育つ地域の土壌や気候、造り手の考え方や熟成方法などによって味わいの個性が生まれます」との言葉があった。
ワインの全体像を理解するためにもう少しここを掘り下げてみよう。
この「地域の土壌や気候」は、いわば国の違いとも言えそうだが、この違いによってワインには、どんな個性が出るのだろうか。
「例えば、温かい気候だと、トロピカルフルーツを思わせる香りやボリューム感が前面に出る品種が目立ちます。
一方、涼しい環境で造られたワインは、かんきつ的な香りや引き締まった酸味が同じ品種でも生まれやすいと言われます。
こういった産地特性を『テロワール』と呼びます。ワインの多様な魅力の1つですね」(若林さん)
「例えば、日本のワインには、だしを思わせるうまみや繊細な特性があります。必然的に、繊細な和食によく合います。
一方で、しっかりした味わいのソースで味わうフレンチには、どっしりとしたフランスのワインがよく合いますね。
日本ワインはつつましくて優しく、フランスは優美で複雑。
イタリアは、州ごとの個性があるものの、陽気かつフレンドリーといったニュアンスが総じてあります。
こうしたテロワールは、各国の郷土料理に合わせやすいという側面もあります。
なんとなく国民性のイメージとも一致しますよね。こうした特徴の違いは、造り手の性格がワインにも少なからず出てくるからではないかと思います」(長澤さん)
ブドウは農作物である。栽培地には緯度の限界がある。具体的には、南半球・北半球のそれぞれ30~50度近辺であり、コーヒーベルトと同様にワインベルトと呼ばれる。
温暖な産地を挙げると、米国カリフォルニアやオーストラリアになる。冷涼な地域で言えばドイツだ。
このワインベルトを超える地域でもワイン造りの挑戦が近年は行われている。東南アジアや北欧各国を中心に注目を集めている。
これだけ産地が増えてくると、初心者の理解がますます遠のきそうだが、産地ごとのテロワールは、国民性のイメージがなんとなく手掛かりになるらしい。分かりやすい話ではないだろうか。
黒・白ブドウの代表品種
ワインのベースには、黒と白のブドウがそれぞれあり、テロワールについても学んだ。ただ、黒ブドウにも白ブドウにも多くの品種がある。
初心者からするとこの辺も、ハードルの高さを感じるポイントのはずだ。例えば、赤ワインの主原料である黒ブドウで言えば、何から押さえればいいのか。
「最初は、最も栽培されている品種の1つ、カベルネ・ソーヴィニヨンを紹介します。フランス南西部のボルドー地方原産で、色が濃く渋みもしっかりとした、たくましいボディ(飲みごたえ)が特徴です。
もう1つは、フランス中央東部、パリの東南部にある山がちなブルゴーニュ地方(フランス中央東部、パリの東南部)原産のピノ・ノワールが挙げられます。
カベルネ・ソーヴィニヨンとは逆で、穏やかな渋みや明るい色味が特徴ですね。軽快なボディ(飲みごたえ)ですが、香りは華やかで余韻が長く、複雑味をもたらしてくれるブドウです。
余談ですが、ピノ・ノワールはワインの最高級ブランドとして知られるロマネコンティの品種でもありますね」(若林さん)
白ブドウの品種については長澤さんが教えてくれた。「シャルドネ」と「ソーヴィニヨン・ブラン」という名前が出てくる。情報量が増えてくるが、焦らずに頭の中で整理したい。
「シャルドネも、ピノ・ノワール(黒ブドウ)と同じブルゴーニュ地方(フランス中央東部、パリの東南部)が原産です。
フレッシュな果実味とさわやかな酸味のバランスがよく、さらに言えばニュートラルです。
産地の特徴が出やすい品種で、涼しい地域で栽培すると、かんきつ系ですっきりした味になります。温暖な地域であれば、フルーティで丸みがあり、トロピカルなニュアンスが出やすいブドウです。
もう1つの品種は、ソーヴィニヨン・ブランです。こちらの原産地はボルドー地方(フランス南西部)です。
シャルドネとは逆で、特徴的なさわやかな香りが品種自体にあるため、グレープフルーツのようなかんきつ香やハーバル感(薬草のような感じ)、青草のニュアンスと表現されますね。
ニュージーランドワインの代名詞的なブドウ品種でもあります。これらの品種をまず押さえていただければと思います」(長澤さん)
分かりやすい酒質から徐々に慣らしていく
黒ブドウ・白ブドウの話から、それぞれの代表的な品種を教えてもらった。
ただ、たくましいボディ(飲みごたえ)が特徴のカベルネ・ソーヴィニヨンなど、ポピュラーな赤ワインの渋みのある味わいがそもそも苦手という人は少なくないだろう。
にもかかわらず、赤ワインが酒の中で一番好きという人も多いイメージがある。初心者の素朴な疑問として、この赤ワイン特有の味に、味覚は慣れていくのだろうか。
「慣れもあると思いますが、どのようにワインと出合うかも大きいでしょう。初めて飲んだ赤ワインの渋みが強かったり、バランスが悪かったりして、ネガティブなイメージが付いてしまうと、ワインへの苦手意識が植え付けられます。
逆に、初めて飲んだワインがおいしければ、どんどん魅力にひかれていくでしょう。その最初の出合いを悪くしないためにも、初めて飲む際には、くせが少なく渋みも穏やかなワインの方がいいかもしれません」(若林さん)
慣れについては長澤さんも言及してくれた。長澤さんいわく、コーヒーや音楽の例で考えると分かりやすいそうだ。
「コーヒーでも、最初から苦味を求めて飲む方はほぼ居ないですよね。まずは、牛乳で割ったり砂糖を入れたりして飲むでしょう。
そこから、だんだん慣れていって、苦味の強い深煎(ふかい)り、酸味が個性的な浅煎(あさい)りへと好みが広がっていくはずです。
ワインもやはり同様で、複雑な香りや個性的な渋みを知る前に「すっきり」や「フルーティ」といった分かりやすい酒質から徐々に慣れていく飲み物なのだと思います。
経験を積んでいく中で、理解や分析ができるようになっていくと思いますね」(長澤さん)
スパークリングやロゼが初心者にお勧め
分かりやすいワインから始めて徐々に慣れていくべきだとの話を学んだ。では、具体的に、どんなワインが分かりやすくお勧めなのだろうか。
先ほどの話であれば、色が濃く渋みもしっかりとした、たくましいボディ(飲みごたえ)のカベルネ・ソーヴィニヨンは避けるべきだとの予想ができる。どうだろうか。
「最初であれば、そもそも論として赤よりも白の方が一般にいいかもしれません。
より爽快(そうかい)ですっきりとしたスパークリングワインもなじみやすいです。赤と白のいいとこ取りであるロゼもいいと思いますよ。
しかし、どうしても赤から始めたい場合は、おっしゃるとおり、先ほどお話ししたライトで華やかなピノ・ノワール(ブルゴーニュ地方原産の黒ブドウ)を使った銘柄がお勧めです」(若林さん)
スパークリングやロゼワインの方が初心者にお勧めとはどういった意味なのか。
聞けば、味わいの問題だけでなく、マリアージュと言われる、ワインと料理との相性の良さもあるみたいだ。
「赤ワインには、濃厚な味付けの肉料理や、こってりとしたソースのメニューがマッチします。
一方の白ワインには、淡泊な味付けの肉料理や魚料理、シンプルな塩味や、あっさりとしたソースのメニューが比較的合います。
その点、赤と白どちらの良さも持つロゼワインは幅広い料理に合わせやすいですね。
また、スパークリングワインは炭酸の爽快(そうかい)感が口内をすっきりさせるウォッシュアウト効果があるので、どんな料理とも相性が良好です。
料理とのマリアージュで迷ったら、ロゼやスパークリングワインを選べば失敗がないと言えるでしょう。その意味でも、初心者向けと言えます」(長澤さん)
赤・白・スパークリングの各お勧め2銘柄
では、今までの知識を踏まえて、具体論を教えてもらおう。成城石井には例えば、どんなエントリー向けワインの銘柄がそろっているのか。
赤・白・スパークリングからそれぞれ2銘柄セレクトしてもらい、好相性の料理と共に解説してもらった。
「赤ワインからご紹介するとまずは、フランスの〈ラ プティット ペリエール ピノ・ノワール〉です。
ピノ・ノワール(ブルゴーニュ地方原産の黒ブドウ)ならではのエレガントな酸味、赤いベリーの風味が表現された味わいが特徴で、スペイン産生ハムのハモンセラーノがよく合います。
一方のチリの〈リベラ デル マイポ カベルネ・ソーヴィニヨン〉はフルーティで渋みが控えめの飲みやすいタイプです。お肉料理がよく合い、スペインのエルポソ フエテックという白カビのサラミがおつまみにお勧めです」(若林さん)
「白ワインについては私(長澤さん)から紹介させてもらいます。
オーストラリアの〈30マイル シャルドネ〉は、トロピカルフルーツのニュアンスと、たる熟成によるふくよかなボリューム感が見事です。なので、当社の取り扱い食品で言えば、当社オリジナルの〈生産者限定ポテトチップス〉で気軽に楽しんでいただけたらと思います。
もう1つ、フランスの〈ラ プティット ペリエール ソーヴィニヨン・ブラン〉は、先ほど若林が紹介したフランス産赤ワイン〈ラ プティット ペリエール ピノ・ノワール〉と同じ造り手のワインですね。
青リンゴのようなさわやかな香りと透明感あるピュアな酸味が豊かで、当社の取り扱い食品で言えば〈成城石井 4種ドライフルーツのクリームチーズ〉とのマリアージュがお勧めです」(長澤さん)
「最後は、スパークリングワインについてもご紹介します。
イタリアの〈ゾーニン アスティ〉は上質なマスカットを使用した、柔らかくすっきりとした甘さが特徴です。この甘みが、スイーツとおいしく調和します。当社定番〈成城石井自家製 プレミアムチーズケーキ〉の他、クリスマスケーキにもぴったりですよ。
また〈ゾーニン アスティ〉は、アルコール度数も7%と低め(日本における一般的なワインのアルコール度数目安は12%前後)なので、この点でも親しみやすいですね。
フランスの〈ヴーヴ アンリ〉は生き生きとした酸がシャープな辛口で、フランスの郷土料理パテ・ド・カンパーニュがよくマッチします」(若林さん)
ボジョレ・ヌーボーより〈立冬ヌーヴォ〉
ワインの銘柄を具体的に教えてもらった。あらためてここで、別の素朴な疑問をぶつけてみた。
銘柄とは少し違うかもしれないが、ワインに詳しくない人でも、季節的なトピックとしてボジョレ・ヌーボーという言葉を聞くはずだ。
ボジョレ・ヌーボーとは、フランスのボジョレ地区(ブルゴーニュ地方の南部)で、その年に収穫したブドウを醸造した新酒ワインを意味する。
解禁日は、毎年11月の第3木曜日と決まっている。あの味わいは入門者にとってどうなのだろうか。
聞けば、長澤さんは「私は好きなんですけど悩ましい質問ですね」とはにかむ。
「個人的には、若々しい香りとフレッシュな酸味が好きなのですが、新酒だけあって酸味も強く、慣れていない方には『酸っぱいワインだな』と感じられるかもしれません。
加えて、解禁日が決められている関係で空輸となるため、その分の輸送費が価格に乗ってしまうという側面もあるんですね」(長澤さん)
長澤さんによれば、多くの輸入ワインは船で運ばれるそうだ。
輸送に時間はかかるが、その分だけ輸送費が船便は安く済むため、価格的な部分で消費者は恩恵を受けられる。ちょっとしたうんちくだ。
「その点でお勧めは、手前みそで恐縮ですが当社が手掛けた〈立冬ヌーヴォ〉です。こちらは、立冬の時季に飲みごろを迎えるように設計した商品です。
ブドウは、2種類のピノ・ノワールと、黒ブドウの有名品種シラーズの2種類を約半年間熟成させ、飲みやすくブレンドしています。
味わいは、フレッシュかつフルーティな新酒らしい若さの中に、複雑で豊かな香りを持っています。
料理との相性も重視しており、ローストチキンやフライドチキン、おせち料理など年末年始の料理にも幅広くマッチしますよ。
今回の〈立冬ヌーヴォ〉の開発に合わせ、塩パンの行列店トリュフベーカリーさんと共同開発した〈白トリュフバター〉もあるのでぜひ、お試しいただきたいですね。
ユニークな組み合わせで言えば、トリュフオイルやトリュフバターとのマリアージュも楽しめます」(長澤さん)
ワインに正解はない
最後は、ソムリエの2人に、どのようにワインを飲めばよりおいしく感じられるのか、お勧めの飲み方を教えてもらった。
「飲みごろの温度は、ブドウの品種や味わいによってそれぞれ異なります。ロゼや白ワイン、スパークリングの方が赤よりも適温は低くなります。
甘口の白やスパークリングワインは特に、よく冷やしてお召し上がりください」(若林さん)
「グラスは、できれば口がすぼまった薄張りのワイングラスがいいですが、一般的なグラスタンブラー(底が平らの円柱型ガラス製コップ)でも初めは構いません。こちらも、ワインへの興味と共に買いそろえていただけたらと思います」(長澤さん)
もちろん「ワインに正解はない」と両人は言う。それぞれの味覚に合うワイン、好みの飲み方がベストであり、そういった嗜好(しこう)は、飲むほど分かるようになると口をそろえる。
ただ、何らかの基準や入り口が初心者にとっては必要である点も間違いないはずだ。まずは、本稿を参考に入り口に立ち、いつしか奥深いワインの沼にハマッてほしいと願う。
※価格は全て税込表記。掲載時時点の情報です。
[取材・文・写真/中山秀明]
[参考]
※ ワインに関する消費者動向調査 – アサヒビール株式会社
※ 「大人」に関する意識調査 – アサヒビール株式会社
※ インターネットによる消費者アンケート調査結果 – 国税庁