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【スタートアップ入門】急成長の鍵は破壊的イノベーション

ビジネス, 学び

スタートアップは、「J カーブ」と呼ばれる成長曲線を描く点が特徴的と言われる。この成長曲線は、「事業開始後の数年間は赤字であるものの、その後に短期間で急成長を果たして、黒字転換によって累積損失を回収する」ことを示している。その成長の鍵となるのがイノベーションだ。ということで【スタートアップ入門】の第2回はイノベーションそのものについてみていこうと思う。

破壊的イノベーション

※画像はイメージです(以下同)

そもそもイノベーションとは何か?

「イノベーションは新しい組み合わせから始まる」
これはイノベーションの父と言われるヨーゼフ・シュンペーターの有名な言葉です。

シュンペーターはイノベーションを次のように表現しました。

「イノベーションとは、現在みんなが普通に思っているものを、創造的に破壊して、経済発展を促すことである」と。さらに彼は馬車と機関車を比べてこう続けます。

「馬車を10台つないでも機関車にはならない」

つまり、今までと全く違うようなことがそこに起こらなければイノベーションは起きないということを強調したのです。それを創造的破壊(creative destruction)と言います。

また、シュンペーターは冒頭でも挙げたように、新しい組み合わせを考えるとイノベーションが起こると言っています。その領域は以下のようなものです。

● 新しい「製品」の導入
● 新しい「生産方法」の導入
● 新しい「市場」の創造
● 新しい「原材料供給源」の導入
● 新しい「組織」

一旦起きたイノベーションは次々と人々の行動を変えようとしていきます。まさにイノベーションの連鎖が起こった瞬間です。

これは、シュンペーターが言うように、新しい組み合わせが作りやすいから起こるものであると言えます。

例えば、オンライン診療がその一つです。

オンラインが普通になった世界において、オンラインと医療を組み合わせたオンライン診療は、コロナ禍で取り組む医師と利用する患者が出てきたことにより、新しい市場を生み出しました。

厚生労働省も当初は暫定的な解禁としていましたが、恒常的な措置へと変えました。運用してみて規制、法律を変え、新しいルールを作ることでイノベーションが生まれたと言えるでしょう。

このように新しい組み合わせの中には、現状のルールを変えると実行できるビジネスモデルがあります。規制緩和や規制創造というルールを新たに作る側の発想で、未来を作るのもスタートアップの醍醐味です。

もちろんそれは、よりよい社会にするために既得権を得た市場と対峙することになるため、大変な仕事になる可能性はあります。

しかし、誰かがそれをやらなければ社会がよくならないのですから、勇気ある第一人者が現れればイノベーションが起きる可能性が出てきます。私は、このようなチャレンジャーを応援するのは、規制緩和によるイノベーション創出を経験してきた者の役割でもあると考えています。

スタートアップの成功は破壊的イノベーションにある

さて、イノベーションにはいくつか種類があります。

その一つが、破壊的イノベーションで、これは1997年にハーバードビジネススクールの教授だったクレイトン・クリステンセンが著書『イノベーションのジレンマ』(玉田俊平太・監修、伊豆原弓・訳/翔泳社)の中で提唱したものです。

破壊的イノベーションは、既存の事業の安定した状況を打破し、その事業が属している業界の常識そのものを変えてしまうくらいのインパクトをもたらします。

日本の事例では、ドコモが提供していたⅰモードがあります。これは、携帯電話でインターネットにアクセスするという画期的な発想でした。

携帯電話の機能はここから広がったと言えるでしょう。単に電話する機械という捉え方を打破し、携帯電話の業界の常識を変えたのです。

ドコモ「ⅰモード」
携帯電話の契約者が急激に伸びた1999年に、世界で初めての携帯インターネットとして登場したⅰモード。ほんの数年のうちに、世界でも珍しい携帯インターネット市場をゼロから創り出しました。後にAppleやGoogleがスマホのアプリエコシステム構築にあたり、ⅰモードを参考にしたのは有名な話です。

このように、従来製品が持つ常識的な価値を破壊し、新しい価値、ニーズを生み出すのが破壊的イノベーションです。

そしてこれは、新しい技術や新しいビジネスモデルによってもたらされます。スタートアップで起業を目指すのであれば、やはり破壊的イノベーションであることが求められます。それこそがスタートアップの面白いところです。

破壊的イノベーションにも種類がある

破壊的イノベーションには「新市場型破壊的イノベーション」と「ローエンド型破壊的イノベーション」の2つがあります。

どちらも「業界の当たり前」を打破することによって、一気にマーケットリーダーに躍り出ることを可能とします。

新市場型破壊的イノベーションは、既存の市場に新たな技術やアイデアを持ち込み、全く新しい価値を創造し、顧客の気づかなかったニーズを新たに作り出す(ニーズ創出)イノベーションです。先程のⅰモードの事例は、新市場型になります。

一方、ローエンド型破壊的イノベーションとは、今ある製品やサービスよりも低価格で、かつシンプルな製品・サービスを提供するイノベーションのことです。例えば、駅ナカなどに立地しているQBハウスがあります。私も掃除機のようなもので髪を吸い取られた時は衝撃的でしたが、今では普通になりました。まさに、身近に定着したイノベーションです。

QBハウス
髭剃りやシャンプーはしない。ビジネスマン向けに速く、安く髪を切るQBハウス。安く提供できるように、カット以外のプロセスを簡略化するオペレーションを徹底的に突き詰めたローエンド型破壊的イノベーションの成功事例。

スタートアップのビジネスモデルを考える時に、どの種類の破壊的イノベーションに取り組むのかという視点だとワクワクして考えることができます。

持続的イノベーションが得意な大企業に差をつけろ

How To STARTUP: イノベーションを起こすビジネスアイデアの育て方(あさ出版)

さらに、持続的イノベーションというものもあります。これは、既存の市場において顧客に求められている価値をさらに向上させることでイノベーションを起こすことを指します。

このイノベーションは主に大企業が得意とするところです。

既存の顧客の満足度を向上させるよう、さらなる改善と改良を重ね、顧客の意見や要望に応えていくやり方です。既存顧客がいないスタートアップには持続的イノベーションは向いていません。

既存市場で成功を収めている大企業や中小企業は、今の市場でビジネスを続けるほうが大きな収益を見込めるので、収益性が低く市場が小さい新興市場にはあまり関心を持ちません。

スタートアップによって破壊的イノベーションが起き、新市場が誕生しても、既存の大企業や中小企業は自ら進んで参入するリスクを取るより、しばらく様子を見るという選択をしがちです。そのタイムラグをうまく利用するのがスタートアップの最大のポイントとなります。

既存の大企業や中小企業が破壊的イノベーションの領域に入ってこないうちに、スタートアップは市場のシェアを獲得するのです。スタートアップは時間との勝負と言われる所以はここにあります。

<TEXT/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(SFC)特任助教 久野 孝稔>

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慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(SFC)特任助教/株式会社NERV代表取締役
1976年茨城県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、茨城県庁に入庁し筑波研究学園都市のスタートアップ産業政策を担当。 31歳でCYBERDYNE株式会社に転職し、初代営業部長、初代広報戦略部長など要職を歴任。さらにロボットスーツ®️の運営で社内起業し、湘南ロボケアセンター株式会社設立後、代表取締役に就任。武田薬品工業株式会社に転職後は日本最大級の創薬エコシステムを立ち上げ、スイスのノバルティスファーマの医療政策部長などを経て現在に至る。マサチューセッツ工科大学VMSコース修了者(日本初)。

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