エステー女性社長が“個性派商品“に根付かせたブランド価値の大切さ。対話に苦労した時期も
日々の暮らしで日常的に使う日用品。生活必需品として欠かせないものだ。だからこそ、メーカー各社からはさまざまな商品が発売され、シェア争いを繰り広げている。そんななか、ユニークな商品を販売し、ニッチな市場で支持されるブランドを多く展開しているのがエステーだ。
消臭芳香剤「消臭力」、防虫剤「ムシューダ」、除湿剤「ドライペット」などのヒット商品はもとより、近年では「トータル エアビズ 企業グループ」を標榜している。空気ビジネスの将来性や今後の事業展望はどのようなものなのか。同社で代表執行役社長を務める鈴木貴子氏に話を聞いた。
当初はエステーの仕事をするつもりがなかった
実は鈴木氏の叔父は、90年代に業績不振に陥っていたエステーをV字回復させた鈴木喬会長だ。型にはまらない考えや、独特の経営手腕は“カリスマ経営者”と称されるが、鈴木氏は当初、「エステーの仕事をするつもりはなかった」と話す。
「父は子供に家業を継がせるつもりがなかったので、私自身エステーで働くことは想像もしていませんでした。ところが、2009年に叔父から『競合他社と差別化をするため、商品のデザイン革命を手伝ってくれ』と突然アプローチされたんです。うまく接点を持たせるために工夫したんでしょうね(笑)。
『エステーの仕事をしないか』と誘われていたら断っていましたが、デザインを改革するという仕事に興味を持ったんです。これがきっかけでエステーに入社することになり、振り返っても叔父とのいいエピソードとして記憶に残っています」
ルイ・ヴィトンで学んだ「ブランド」の大切さ
鈴木氏は過去にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループでラグジュアリーブランドのマーケティングやブランディングに携わってきた。そこで学んだのは「ブランドの持つ世界観や培ってきたストーリーが唯一無二の付加価値」だった。
「ラグジュアリーブランドはいろいろありますが、例えばルイ・ヴィトンのバッグを買った人に『なぜルイ・ヴィトンを選んだの?』と聞いても、説明し難いと思うんです。要はルイ・ヴィトンというブランドが紡いできたストーリーが、ブランドそのものの価値を生み出し、そのブランドにしかない世界観で『ルイ・ヴィトンが好き』という思いが生まれる。
以前、一橋ビジネススクールの楠木建教授と対談した時に学んだのが『better(ベター)』と『different(ディファレント)』の違いでした。betterは競合と価格やスペックを競い、より良い商品を追求することですが、これだけ意識していても競争をしなくてはならない。一方、differentは測るものさしが存在しない、いわばその商品にしかないブランド価値を示すものであり、商品やブランドの成長につながります」