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「Black Lives Matter」訳せる?人種差別問題で日本人も知っておくべき時事英語

コラム

 日本でも報道がある通り、Black Lives Matterの運動が世界的に広がっています。決して新しい運動ではないですが、ここまで世界的に広がったのは初めてではないでしょうか。

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 Black Lives Matterは「BLM」と略されることもありますが、日本語訳が難しいとされています。「黒人の命は大切だ」「黒人の命が大切だ」「黒人の命こそ大切だ」「黒人の命も大切だ」など、助詞の使い方ひとつで意味が大きく変わるからです。通訳者や翻訳者の間でも色々な議論がなされていますし、アフリカ系アメリカ人の歴史や社会を研究する人々の間でも議論がなされています。

【第81回】Black Lives Matter(BLM)

 大都市だけではなく、中小規模の街でもデモが繰り返されています。日本語でも「デモ」と言いますが、英語ではDemonstrationと略さずに言います。Demoと略すと「製品デモ」などのDemonstrationの印象が強くなります。また、Protestという単語もよく使われます。「抗議」の意味です。

 米国において、歴史的にアフリカ系アメリカ人が差別を受けてきたことは、多くの日本人も知っています。しかし、この差別が20世紀中頃の公民権運動(Civil rights movement)で解決されたと思っている日本人がいるようです。

 しかし、実際には差別が根強く残っています。言葉に出して差別的な発言をする人も少なくありませんし、同時にSystemic racismと呼ばれる人種差別も根強いです。これは「制度的人種主義」と訳されることが多いですが、社会構造としてアフリカ系アメリカ人を差別しているということ。Structural racism(構造的人種主義)と呼ばれることもあります。

写真に表れる無意識の人種差別

黒人 デモ

Califonia Sheriff Deputies guard during Black Lives Matter protest in Hollywood, California © Elliott Cowand

 これらの人種主義はOvert racism(Overtは「明らかな」「目に見えた」の意味)ではなく、Covert racismやImplicit racismと言われます。Covertは「隠れた」という意味ですし、ImplicitもExplicitの反対の意味を持ち、「暗示された」という意味です。

 少し前になりますが、ハリケーンがルイジアナ州を襲った際に、2つの写真に付けられた解説文が話題になりました。洪水で腰まで水に浸かっている中、アフリカ系アメリカ人の男女2人が食べ物を持って移動している写真が1つ目の写真。その写真につけられた解説文には、Looting(略奪)と書いてありました。お店から盗んだ食べ物を持って逃げている、という内容です。

 それとほぼ同じ写真で、白人の男女2人が食べ物を持って移動している写真には、Finding food(食べ物を見つけた)と書いてありました。全く同じメディアによる写真、そしてキャプションですが、使われていた動詞には違いがあり、伝えるものの持つ無意識の人種差別が明らかになった写真でした。

 同じように、BLMをRebellion(反乱)と表現するのか、Resistance(抵抗)と表現するのかでも、印象や個人の考え方の違いが目に見えてきます。

<TEXT/木内裕也>

会議通訳者、ミシガン州立大学研究者。アメリカ大衆文化、アメリカ史の研究を行うほか、国際一流企業、各種国際会議などの通訳を行う。またプロサッカーの審判員としても活躍。著書には『同時通訳者が教える 英語雑談全技術』『耳と口が英語モードになる同時通訳者のシャドーイング』(ともにKADOKAWA)など多数。英語で仕事をする人の応援サイト「ハイキャリア」にも執筆

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