“上司の目”はパフォーマンスを下げる!?在宅勤務の家中「上司の顔」だらけにした結果
新型コロナウイルスの猛威により、私たちの「働き方」も大きく変わり始めました。私が働く株式会社人間も在宅勤務に移行しており、私も4月から在宅で作業しています。
この連載は身長186cmの大型新人アイデアマンこと岡シャニカマ(@SHANIKAMA_hrkt)が「面白くて変な働き方改革」を提案するというコンセプトでスタートしているので、この未曾有の一大事に自分なりの“ヘン”な提案ができればと考えています(真面目な解決策も考えてみましたが驚くほど出ませんでした)。
さて、今回のお題ですが、前回に引き続き「ブラック企業アナリスト」の新田龍さんに伺ってみました。この緊急事態に新田さんが考える“解決すべき課題”とは何なのでしょうか。
■ブラック企業アナリスト「新田龍さん」
【新田龍】
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役、働き方改革コンサルタント。労働環境改善支援とブラック企業相手のこじれたトラブル解決が専門。各種メディアで労働問題・ブラック企業問題についてコメントし、優良企業は顕彰する。ブラック企業ランキングワースト企業出身、厚労省プロジェクト推進委員
目次
在宅勤務は「モチベーションとの戦い」になる
新田龍(以下、新田):経団連が会員企業を対象に行った調査によると、新型コロナウイルスの影響で約70%もの企業が在宅勤務に切り替える動きを取ったらしいのですが、その一方で総務省の「平成29年通信利用動向調査」によれば日本の企業で、かつてから在宅勤務する環境を整えてきた企業は30%にも満たないんです。
今までITリテラシーがなくても対面で会話と阿吽の呼吸で業務を遂行してきた会社が、いきなりWeb会議だチャットツールだと言っても無理が生じるのは当たり前です。そしてそんな会社がごまんと出てきたのがここ1か月ほどの出来事なんです。
岡シャニカマ:なるほど。うちの会社はWebコンテンツの案件も多いので、前からWeb会議も多用していましたが、たしかに製造業やサービス業のことも考えると慣れていない会社のほうが多いですよね。
新田:そうですね。なので在宅勤務にも対応できる連絡系統や評価制度などの整備がままならないうちに移行した会社では、コミュニケーションやマネジメントが大きな課題になっています。平たく言うと、上司が部下をうまくマネジメントできないんですね。そこで、今回も人間さんらしいやり方で「在宅勤務でも上司が部下をうまくマネジメントできて、部下のモチベーションまで向上してしまうアイデア」を考えてもらえませんでしょうか?
なぜ在宅はモチベーションが下がるのか?
岡シャニカマ:私も最近、在宅になったのですが、著しくモチベーションが下がりました。1時間のランチ休憩のはずが、気が付くと映画『翔んで埼玉』を最後まで観終えていたんです。在宅恐るべしですよね。
新田:それって在宅のせいなのかな……。でもまあ分かります。家だと気が散ることもあるし、会社ほどのモチベーションは明らかに保てないですよね。
岡シャニカマ:保てないですね。そこでまず「在宅とオフィスの違い」から考えてみたんですが、その大きな違いが2つ分かりました。それは「上司」と「家族」です。
オフィスには「上司」がいて常に目を光らせているのでサボるわけにはいきませんし、『翔んで埼玉』なんて観ようものなら鉄拳が飛んでくるかもしれません。それに上司に認められると給料も上がるので、上司がいること自体がモチベーションになるわけです。
一方「家族」は映画どころか海外ドラマを1シーズン観ても怒ることはありませんから、ついついジャック・バウアーの一日を追ってしまうのも無理ありません。そもそも家族はリラックスさせてくれる存在ですから。
新田:たしかにその通りですね。
岡シャニカマ:つまり、在宅だと「モチベーションを上げる存在」としての上司がおらず「モチベーションを下げる存在」としての家族がいるんです。
新田:なかなか鋭い視点かもしれませんね。でも、家にいる以上、家族がいることも上司がいないことも避けられないのではないでしょうか?
そうだ、上司と家族を入れ替えよう。
岡シャニカマ:今回は「上司と家族を入れ替えるアイデア」を考えてきました。その名も「上司のお面(家庭用)」です。
新田:なるほど! これは簡単かつ、意外と効果的かもしれませんね。リビングで仕事する人も多いので、家族の顔が見えてしまうだけで仕事モードになれない人は少なからずいるでしょうし。そういえば昔読んだ「ドラえもん」で、ママに宿題をするよう言われたのび太が、先生のプラモデルを作って自分の後ろに立たせたところ、集中できて宿題もすぐ終わった、って話があったのを思い出しました……。
岡シャニカマ:さすがは藤子・F・不二雄先生、先見の明ですね。私が思うに音はイヤホンで防げても、視界はVRでもしなければシャットアウトできません。つまり家族の見た目が変わるというのはかなり効果的だと踏んでいます。そこで実際にやってみました。
新田:やってみたんですね。
リモートワーク中の一家に協力してもらいました
岡シャニカマ:私にはなぜか妻も彼女もいないので、今回はIT企業にお勤めでリモートワーク中の武山さんご一家にお手伝いいただきました。そして、お面の写真は実際の上司である水野さんという方にご協力いただいています。
新田:思いの外本格的だ……。
岡シャニカマ:まずは奥様が上司のお面をつけたパターンです。
岡シャニカマ:顔を向けられるとグッと上司の存在感が増しますね。
新田:たしかに、紙に印刷しただけとは思えないほどしっくりきてますね。あとちゃんと目が合ってる。そして怖い……。
岡シャニカマ:仕事が疲れてくると、奥様が暖かいコーヒーを差し出してくれるんですよね。
新田:これは「集中できる」というより、むしろコントみたいで笑えてしまいますね……。
お子様の顔にお面をつけようとしたら…
岡シャニカマ:たしかにコント……気を取り直して、お次はお子様です。なぜか分かりませんが上司のお面をかなり嫌がったそうで、背中に付けて遊んでくれています。
新田:不気味……。この日以降、子供に対して今まで通りの愛情を持って接することができるか自信をなくしてしまいそうです……。
岡シャニカマ:たしかに文字通り上司と我が子を“重ねて見てしまう”という効果は期待できそうですね。また、オマケとして家で誘惑の多そうな他のところにも貼ってもらいました。
新田:体験していない身で言うのも何ですが、これは「上司を近くに感じる」という目的を果たしすぎた結果、ノイローゼになってしまいそうですね。
岡シャニカマ:さすがは新田さん。実は武山さんご本人からも「とりあえず落ち着かないです。自宅とも違う職場とも違う異空間で仕事をしてる感覚になります」という感想をいただきました。
新田:やっぱり……。
新田龍の総評「やっぱり、話として聞くのと、実際にやってみるのとは違う、ということがよく分かりました」
集中するための試みだったはずが、かえって精神的に不安定になってしまうとは……今さらながらの気づきなんですけど、やはり仕事に取り組むためのエネルギーやモチベーションを外部に依存してしまうのはよくないですね。
「それがないと頑張れない」状態になってしまいますから。
そもそも在宅勤務自体、「誰に管理されなくても自律的に働ける」という前提があって成立するものなので、管理しようという考え自体が間違っていたのかも。
細かい管理に頼ることなく、社員みんなが自発的に頑張ってしまいたくなるような評価制度とか処遇設計を見直していくほうにエネルギーを投入すべきですね。
まとめ「“面と向かって”仕事しなくて良い体制が必要だ」
今回の「家族に上司のお面を被らせる」という企画は非常に単純明快ですが、誰一人として実施してこなかった『コロンブスの卵』かに思われました。が、結果は残念なものです。
実際にやってみて集中力をアップする効果は発揮できませんでしたし、それ以前に恐ろしすぎて逆効果だった可能性も否めません。やはり所詮はお面に過ぎず、根本的な解決には至りませんでした。夫婦と同じように、上司と部下の関係性も仮面では成り立たないということでしょう。
しかし、ここまでやったからこそ分かることがあるのではないでしょうか。それは新田さんもおっしゃる通り「監視による管理の限界」です。面と向かって仕事が進められない以上、私の様に家では堕落してしまうような人材がいて「監視されていないと仕事をしない」という状態を変えるための打ち手が必要なのかもしれません。
それに気づかせてくれたと言う点において、今回の企画は成功への第一歩と言えるでしょう。これに臆することなく、臆面もなく、挑戦を続けていこうと思います。ご協力いただいた武山さん、水野さん、そして新田さん、ありがとうございました。
<TEXT/岡シャニカマ>