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青果売り場の「パイナップル」から国際政治を学ぶ。台湾産パイン輸入量が2年で8倍以上の深ーいワケ

学び

国際問題や国際政治というと、どうしても縁遠いと感じてしまう。自分の生活に直接的な影響を与えないため関心も持ちづらい。

しかし、よくよく注意してみると身近な場所にも、国際問題を引き金とする暮らしの変化が見え隠れしている。例えば、スーパーマーケットなどの青果売り場に並ぶパイナップルだ。

bizSPA!フレッシュライターにして清和大学講師、および一般社団法人カウンターインテリジェンス協会理事であり、中国事情にも詳しい和田大樹が、青果売り場から見えてくる中国と台湾の国際問題を語った。

台湾産パイナップルが日本市場に並んだ深ーいワケ

パイナップルといえば、亜熱帯や熱帯地域で育ち、スーパーマーケットでも普通に売られる身近な果物だ。その多くの値札には、フィリピン産と書かれている。沖縄を旅行した際には、現地産のパイナップルを試食する人も多いだろう。しかし近年、そのパイナップル事情に大きな変化が起きていると気付いていただろうか。

台湾産パイナップルをなぜか目にする機会が増えたはずだ。

台湾というと近年では、タピオカが有名だ。その専門店が、都心だけでなく、郊外住宅地のショッピングモールにも入り、若者を中心に人気を博している。海外旅行先としても常に人気上位の渡航先で、グルメ目当てに多くの日本人が訪れる。

その台湾、実は、パイナップルも多く生産している。台湾=パイナップルのイメージを持つ日本人は数年前までゼロに等しかっただろう。しかし、45万トン前後が台湾では毎年生産されていて、その9割近くが国内で消費され、残りの1割が海外に輸出されてきた。その海外輸出分の9割以上は中国に向かう。

しかし、台湾と中国との関係が悪化し、2021年(令和3年)3月から台湾産パイナップルの輸入を突如中国が制限した。中国側は、輸入される台湾産パイナップルから害虫が検出されたと衛生上の理由を示したが、中国の台湾への政治的圧力であると私は間違いなく考える。台湾国内でも同様の受け止め方がされている。

台湾では、来年1月に総統選挙、他の国でいう大統領選挙が行われる。これまでの8年間、台湾で指導者を務めてきた今の蔡英文(さいえいぶん)氏は、米国や欧州、日本など民主主義国家との関係を重視してきた。

中国の習近平政権は、その政策方針に強い不満を抱いていた。しかし、台湾へ武力行使すればその代償が計り知れない。そこで、代替手段として台湾へ、経済的な圧力を掛け続けているのだ。

その一環が、今回のパイナップルの一方的な輸入停止と見られる。中国側には、パイナップルの輸入制限で、経済的に台湾を悩ませ、蔡英文政権の欧米重視路線を見直させる狙いがあったと考えられる。

台湾南部の屏東にあるパイナップル畑

そこで、台湾側は日本に活路を求めた。これまで、台湾から日本へ運ばれるパイナップルは微々たる量だったが、台湾の貿易会社に台湾政権が輸送費を補助し、競争力を付けさせた。

日本の農林水産省に相当する行政院農業委員会などが日本側にアプローチを掛け、売り込みを掛けられた側の日本の青果の総合流通企業も、台湾産パイナップルのクオリティの高さを知る結果となった。日本の青果の総合流通企業は、技術指導を行い、最高の状態で輸送できるように手はずを整え輸入した。日本の市場に台湾産パイナップルが並んだいきさつだ。

多くの輸入契約を結んだ青果の総合流通企業に経緯を確かめたところ、政治的な判断はなく、台湾産パイナップルの品質の高さを純粋に評価した結果だと語ったが、一連の動きの発端には政治の影響が確かに存在する。

日本へ輸出される台湾産パイナップルは8倍以上に

台湾が発表した統計によると、中国による輸入制限発表前の2020年(令和2年)、中国向けの輸出は約4万2,000トンだったが、2021年(令和3年)には約4,000トンにまで落ち込み、2022年(令和4年)はたった400トンだったという。

一方、2020年(令和2年)の日本向け輸出量は2,000トンあまりだったが、2021年(令和3年)に1万8,000トンと急増し、2022年(令和4年)も1万7,500トンあまりとなった。この2年間で、台湾から日本へ輸出されるパイナップルは8倍以上にも急増し、最大の輸出先となったのだ。

以上が、あちらこちらの青果売り場で近年、台湾産パイナップルを目撃するようになった背景である。スーパーマーケットの店内を普通に歩いていると「台湾からパイナップルが多く入るようになったんだなー」と思って終わりかもしれない。しかし、身近な果物からも国際政治の影響を感じられる。

現在、中国は、台湾産パイナップルの輸入制限を解除している。しかし、今回の件で、台湾政府も、パイナップル輸出の9割以上を中国に依存する経済リスクを把握しており、日本への輸出が維持される可能性は高い。

この話は、パイナップルに限らない。今年の8月に入り中国は、台湾産マンゴーの輸入を制限すると新たに突然発表した。どの程度制限されるのか詳しくは分かっていないが今後は、マンゴー農家を救うべく各所が動くと考えられる。結果、台湾産マンゴーを、あちらこちらのスーパーマーケットで目撃する機会が増えるかもしれない。

[参考]
台湾パインの対日輸出、中国の輸入禁止で8倍超 農家「日本に感謝」 – 朝日新聞
日本のスーパーで台湾の「カットパイン」発売、農委会が日本の業者と消費者に感謝 – TAIWAN TODAY
中国、台湾産マンゴーの輸入停止 恣意的と台湾反発 – Reuters

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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