「動画ライブ配信やって」と突然任されたら。必要な機材や失敗を避ける方法をプロに聞いた
コロナ禍でテレワークが浸透し、Web会議やウェビナーなど動画を活用した業務も定着した。
映像のプロでもない人たちが動画ライブ配信を行なうようにもなり「うちでもやってみようよ。若いんだから分かるでしょ」と、無茶ぶりのような配信業務を勤務先で任される若手も出てきているかもしれない。
そこで今回は、法人向け動画サービスを提供するKKCompany Japan合同会社、および企業の動画配信を支援する品川動画配信スタジオの担当者らに、動画ライブ配信の基本と必要な機材、よくあるトラブルの原因とその対応策を聞いた。
動画ライブ配信に必要な機材・プラットフォームとは?
そもそも論として、動画ライブ配信を行うには、何を用意すればいいのだろう。「インスタライブ」程度であればアカウントとスマホがあれば事足りるが、動画ライブ配信を業務の一環で企業が実施するなら、次のような機材はそろえた方がいい。
・配信用PC
・カメラ
・外付けマイク
・照明
・オーディオミキサー
・スイッチャー
・キャプチャーボード
後半のオーディオミキサーは、聞き取りやすいよう音を調整する機材を意味する。
スイッチャーは、複数のカメラで撮影している映像を切り替える際に使う。キャプチャーボードは、カメラで映した映像をPCに取り込む機材だ。
さらに、初心者には盲点かもしれないが、動画配信プラットフォームも欠かせない。動画配信プラットフォームとは〈Zoom〉や〈YouTube〉のようなサービスと言えば分かりやすいはずだ。
これらのプラットフォームは無料でも利用できる。プライベートの動画配信であれば何の不足もない。
しかし、法人向けに特化した高機能な有料動画配信プラットフォームもこれ以外に存在する。
例えば、今回の取材先であるKKCompanyの一般法人向け動画配信プラットフォーム〈BlendVision One〉の場合は、動画・ライブ配信に必要な機能や、企業に求められるセキュティ性・秘匿性を確保できる機能などがオールインワン・パッケージで利用できる。
直感的な使いやすさがあるため、ITリテラシーがそれほど高くない新人が「動画配信を担当して」と丸投げされても簡単に設定が可能だという。
まがりなりにも企業業務の一環で動画ライブを配信する場合、法人向けの動画プラットフォームを選んだ方が、経験のない人は安心かもしれない。
配信環境にまつわるトラブルの対応策
機材をそろえ、最適な動画プラットフォームを選んだところで、動画ライブ配信ではさまざまなトラブルが起きる。
「映像がカクカクする」「いきなり配信が止まる」「音質が悪い」「ガサガサ聞こえる」などのトラブルを視聴者として経験し、ストレスに感じた覚えも過去にあるはずだ。
KKCompany Japanの製品マーケティング担当・福田恭司さんによれば、これらのトラブルは配信環境にまつわるケースが多いという。経験の浅い人が、動画配信を担当する場合、ありがちなトラブルにどのように備えればいいのだろうか。
●よくあるトラブルその1:映像がカクカクする
「映像のカクツキの原因は、視聴者のデバイスで動画をダウンロードする速度が、動画の再生速度に追いついていないケースが多いです。
配信する動画データの容量(ビットレート)を見直すか、視聴者側のネットワーク環境の改善が有効です。
再生環境にかかわらず、全てのデバイスで映像がカクツク時は、動画素材そのものに問題があるかもしれません。
オンデマンド配信(動画をサーバーにアップロードし、視聴者の好きなタイミングで見られるようにする)なら素材を再アップロードし、ライブ配信なら送信環境を見直しましょう
いずれにしても、視聴テスト動画を用意し、配信する前に、視聴者が問題なく再生できるか確認できるようにしておくと安心です」(福田さん)
●よくあるトラブルその2:いきなり配信が止まる
「1人の視聴者だけ配信が止まり、全視聴者に影響が見られない場合、その視聴者の再生デバイスや通信環境に問題がある可能性が高いです。
視聴者の再生デバイスに問題がある場合、再生プレイヤーを一度閉じて再起動すると復旧するケースが多いです。
再生デバイスではなく、視聴者の通信環境に問題がある場合は、一時的なダウンロード速度の低下が原因と考えられます。電波状況を改善したり、安定した速度のWi-Fiに接続したりしてもらいましょう。
こうした解決策に関する情報を、FAQページなどに事前に掲載しておくと、サービス向上にもつながります」
●よくあるトラブルその3:音質が悪い。ガサガサしている
「デジタル音声に配信の過程でノイズが混入する可能性は低いです。その意味で言えば、収録時の機材や環境が原因かもしれません。
特に『ガサガサ』というノイズは、収録機材や環境に主な原因がある場合が多いです。マイクの感度を調整したり、風防を使用したり、コンプレッサーを使ったりすれば劇的に改善するケースがあります」
動画ライブ配信の段取りにまつわるトラブルの対応策
動画ライブ配信のトラブルは、技術的な問題で生じるだけとは限らない。動画ライブ配信に参加した経験のある人なら「運営側の段取りの悪さ」を目の当たりにしたケースもあるはずだ。
段取りにまつわるトラブルの原因と対応策については、企業などのオンライン動画活用を支援する品川動画配信スタジオの森正宏さんに聞いた。
●よくあるトラブルその4:画像の切り替えが下手で、話し手以外の人が映ったり、スタッフやゲストが慌てる姿が映ったりする
「原因はずばり、練習不足です。社内のWeb会議と対外的なイベント配信とでは運営ノウハウが全く違ってきます。『いつもやっているから』というせりふが出たら危険な兆候と思ってください。
大掛かりなイベントであれば最低2回、通しでリハーサルを行い、少なくとも開始2時間前から当日は準備してください。不慣れは罪ではありません。しかし『何とかなるだろう』という態度は怠慢だったと後で反省させられる可能性が高いです」(森さん)
●よくあるトラブルその5:トラブル時に混乱するだけで視聴者へのアナウンスがない
「トラブルが起きた時には、きちんとアナウンスしてください。何らかの価値を視聴者に届けたいと思って真摯(しんし)に臨んでいる限り、トラブルが生じてもきちんと説明すれば分かってもらえます。
トラブル時の対応こそ真価を発揮する時です。視聴者を第一にする気持ちは、オンラインを超えて相手にも伝わります。受け身ではなく、視聴者に価値を提供するのだと気概を持って臨みましょう。そのために必要なのはやはり、しっかりとした準備です」(森さん)
動画ライブ配信の心得まとめ
最後に、森さんに、動画ライブ配信の心得を振り返ってもらった。
「突き詰めて考えれば、トラブルの原因は2つしかありません。
1つは『準備・リハーサル不足』、もう1つは『人員不足』です。
動画ライブ配信を初心者が担当するとなると、機材トラブルに目を奪われがちです。しかし結局、ほとんどのトラブルは準備不足と人員不足が原因で起こります。
人員が足りない場合、われわれのような外部業者への依頼も選択肢の1つとなるはずです。
リアルなイベントと同じように人員を確保し、しっかり準備した上で、素晴らしい、価値ある情報を日本中、世界中に届けましょう」(森さん)
動画ライブ配信を任された場合、しっかりと環境を整え、事前の準備を怠らない姿勢が大切だと学んだ。
「若いから分かるでしょう」と無茶ぶりにも近い形で動画ライブ配信を任された若手は参考にしたい。
[取材協力]
福田恭司さん
KKCompany Japan 合同会社 製品マーケティング担当。
10年間、大手航空インフラ企業にて経営計画業務に従事した後、HKU(香港大学)でMBAを取得。世界13カ国に拠点を持つグローバルSaaS企業の顧客サービス担当として、CX(顧客体験)向上や業務プロセスのDX化を推進する。
森正宏さん
品川動画配信スタジオ(運営会社:クスノセ・アンド・カンパニー株式会社取締役)コロナ以前から法人の動画活用に着目。スタジオをゼロからつくり、豊富な現場経験で培った知見を基に企業・官公庁のオンライン動画活用をコンサルティングしている。
[取材・文/一ノ瀬聡子]