イケてない中学時代を後悔…華やかな「青春」に憧れる“青春コンプの実態”を専門家に聞く
妄想が癒しになっている可能性も
「現在の生活に満足できない」という側面が青春コンプレックスを抱かせている可能性もあるようだ。
「青春時代は、大人になって振り返ると“取り戻せない輝かしい時間”のように思えます。現在の生活に向き合うことに疲れた時、その時期を思い出したり、“こうであったかもしれない自分”を妄想したりすることには一時的な癒しの作用があるかもしれません。
そのような仮想青春時代をイメージすることが、現実に向き合い続ける生活の中でちょっとした息抜きのような役割を果たしている可能性もあります。上手にイメージで遊べるならば、青春コンプレックスも使いようだと思います」
心理的な負担を和らげている?
現実青春時代についても、「中学イケてない芸人」のように、それを笑いにまで昇華することができれば、青春コンプレックスを抱くことが、「完璧でないけど愛すべき自分」へのまなざしを育てることにもなるとのことだ。
「真剣に苦しんでいる人の場合にはそうも言ってられないのですが、その場合でも、青春コンプレックスが一時的な心の逃避として機能している可能性はあります。青春時代への後悔や悩みに目を向けることはツラいことなのですが、それでも現在の生活で向き合うべき問題に向き合うよりはマシだというような場合には、青春コンプレックスという『代理の問題』に悩むことで心理的な負担を和らげているのかもしれません。
周囲に苦しむ人がいたら、その気持ちや思いは受け止めつつも、その人とは別の観点からコンプレックスを味わったり、現在を生きることに前向きになれることに注意を向けたりなど、考え方にも別の選択肢があることを提供するコミュニケーションをしてほしいと思います」
青春コンプをネガティブに捉えすぎるのではなく、無理に解消せずとも適度な距離感を保つことが精神衛生上、もっとも望ましいことなのかもしれない。
<取材・文/望月悠木>
【中間玲子】
兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授。専門は自己論、青年心理学。主に思春期から早期成人期における自己意識の検討から、自己の形成過程の探究を進めている。編著者に『現代社会の中の自己・アイデンティティ』(金子書房)などがある