“経験中心の履歴書”で経済格差はなくなる?学歴社会の功罪をまじめに考えた
学歴社会のほうがマシ?
吉川氏は「家庭環境が就活における重要な評価材料として見られている」と語り、こう続ける。
「就職規定では家庭環境については掘り下げることは禁止されているため、『あなたはどういう家庭で育ちましたか?』とは聞けません。なので、その人の個性や体験を聞いたり、大学の偏差値を重視したりなど、間接的に家庭状況を探ろうとするのです。
裏を返すと、家庭環境は最悪だけど逆境に負けずに頑張って勉強して良い大学に入っても内定を獲得できない、というケースは往々にしてあります。要は、『まだ学校名で判断されたほうがマシ』と言える危険性を新卒一括採用は含んでいます」
今の評価制度は悪くないと言えるか
新卒一括採用は問題がゼロというわけではない。ただ、最終的には就活力が大きく作用するため、「東大卒ならどこでも入社できることはありえない」という事実を今回改めて確認できた。最後に今回の話題について総括してもらった。
「仮に新卒入社した会社から一切転職できず、40年間働き続けなければいけない場合、一度生じた格差が固定化されるため、それを助長すると言えます。ただ、仮に学歴や出自の影響によって新卒でいい会社に入れなくても、そこから経験やスキルを獲得することで、良い会社に転職することも可能です。よって、転職は実家の太さなどはあまり評価されないため、新卒一括採用や親ガチャが格差を助長している、とは言い切れないのではないでしょうか」
依然として問題は多いが、現行の評価制度は学歴や出自ばかりが軸になっているわけではない。学歴中心と経験中心も上手く織り交ざっており、決して悪いものではない。優れている部分にも注目することで、若者の格差是正に関するより良い議論ができるのではないか。
<取材・文/望月悠木>
【吉川 徹】
1966年島根県生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授。専門は計量社会学、特に計量社会意識論、学歴社会論。SSPプロジェクト(総格差社会日本を読み解く調査科学)代表。主な著書に『日本の分断~切り離される非大卒若者(レッグス)たち~』(光文社)などがある