転職・失業を経て人気ブックライターに、今も印象に残る言葉「リクルート時代の上司が」
文章は「具体的な言葉」があるほうが伝わる
例えば「とても寒かった」という表現を、形容詞を使わずに書くとどうなるか。「温度計はマイナス30℃を示していた」「手がかじかんで真っ赤になった」「氷柱(つらら)は20センチの長さになっていた」。どうですか。どちらが寒そうでしょうか。
要するに、文章は「具体的な言葉」があるほうが伝わるんです。それは僕が「素材」と呼んでいるもの、すなわち、「事実、数字、エピソード・感想」です。だから僕は取材でも、「事実、数字、エピソード・感想」を探します。そのほうが、形容詞を使うよりも圧倒的に伝わるから。今振り返っても、キャリアの最初の段階で、伝わる文章を作るヒントをもらえてよかったな、と思っています。
ちなみに、よく言いますが、形容詞を多用すると、「今日は楽しかった、美味しかった」みたいに小学生の作文になってしまいます。それを防ぐには具体的な言葉、「素材」を意識すればいいんです。子どもに教えてあげると、作文が一変しますよ。
若い人におすすめしたい『ノルウェイの森』
――上阪さんが、若い人に向けておすすめしたい本は何かありますか?
上阪:会社員として約5年働いて、当時はなかなかうまくいかず結構しんどかったんですけど、そんなときに支えてくれたのが、村上春樹さんの『ノルウェイの森』でした。
もともと本をまったく読まない人間だったんですが、たまたま友人が置いて行った村上春樹さんの小説を読み始めたのがきっかけで、読むようになりまして。『ノルウェイの森』は、最初は恋愛小説のつもりで読んでいたんですけど、何かのタイミングで読み直した時、ドキッとするフレーズがたくさんあったんです。「自分に同情するな」とか「世の中は原理的に不公平なものなんだよ」とか「必要なのは理想ではなく行動規範だ」とか。
一番好きなのは「人生はビスケットの缶だと思えばいいのよ」という言葉。ビスケットの缶には美味しいビスケットと美味しくないビスケットがありますよね。当時は仕事がつらかったので「今は美味しくないビスケットを食べている。後で美味しいビスケットを食べられるんだ」と自分に言い聞かせていました。