「ひろし」は救世主だった。“ゆかりシリーズ”の三島食品に聞いた、独自の哲学
男性名だけ由来が安直なのはなぜ?
ふりかけシリーズは6品あるが、それぞれこだわった食材と意味合いがある。ゆかりに関しては、古今和歌集で「縁」のあるもの、「ゆかり」のあるものとして、「むらさき草」が詠われているところから、ゆかりと命名されたようだ。その他の女性名も調べたが、しっかり由来がある。
ただ、今回のひろしといい、かつおといい、男性の名前だけ、なんとなく安直な気がする。
「ゆかりとかおり、あかりまで、社内では“韻を踏んだ商品名”という認識しかなく、人名のようだと誰も気づいていませんでした。しかし、SNSで『3姉妹のようだ』と話題にしていただいたことによって、社内でも人名のような商品名を意識し始めた経緯があります。そのため名前の由来は商品によって異なっております」
この名前のようなシリーズでは、「しおり」もいたが、ある理由で去っていった。「原料事情です。しおりは業務用製品で、大きな赤しその葉をそのまま使用し、おにぎりの外側に巻くなどとしてお使いいただく製品でした。残念ながら原料の確保が難しくなり、2011年に販売を中止しています」(長井氏)。
ヒット商品を生み出す苦労
三島食品が新商品を出すと何かと話題になる。そもそも、ゆかりが全国的にヒットしたきっかけは何だったのか。
「ゆかりが発売されて52年ですが、当時のふりかけは魚の節(ふし)などの動物性原料がメインで、植物性原料だけを使ったふりかけはなかったみたいなんです。最初は全然売れなかったのですが、学校給食でゆかりを使っていただけるようになり、子供たちが『お母さん、あの赤いご飯が食べたい』と言うようになりました。そこから母親たちが『どこで売っているんですか?』と調理員さんに問い合わせがくるようになり、そこから口コミで広まったと聞いています」
だが、ゆかりがここまでヒットするまでには苦労があったようだ。原材料の確保や品質を安定させるために、赤しその種を20年かけて開発したという。
「ゆかりが人気商品になるにつれて、原料の確保が必要になりました。赤しその爽やかな香りには、ペリラアルデヒドという成分が関係しています。しかし、長年自然交配することで、香りがよくない赤しそもできてしまうのです。そこで近畿や中部、四国をメインに産地を回って、農家さんと一緒に赤しその栽培に取り組んだのですが、在来種では限界でした。
そこで当時社長だった三島豊(現会長)が『ゆかりに合う赤しその種を作ろう!』と言って、1988年に挑戦しはじめたのです。花が咲く時期は特に注意が必要で、雑種と交配しないように袋をかけるのですが、袋をかけるタイミングが非常に難しかったといいます。そしてようやく、1999年に色と香りを固定化した新しい種が生まれました」