電通の「働き方改革」では長時間残業が減らない本当の理由
こんにちは、産業医の武神健之です。
社会問題となった電通過労自殺事件から1年が経ちました。この間、政府はいわゆる「働き方改革」を推進してきたわけですが、企業における「働き方」は、どのように変わったのでしょうか?
私は、これまで産業医として1万人の働く人たちを面談してましたが、昨今の長時間残業の議論では、ワークライフバランスを実現できるとは思っていません。今回はその理由をお話します。
電通式「働き方改革」は素晴らしい。けど……
今年7月、電通は「労働環境改革基本計画」を発表しました。その内容はおおよそ以下の4点に集約されます。
・法令遵守・コンプライアンスの徹底
・三六協定違反、ハラスメント、過重労働の3つのゼロの達成
・2年後の総労働時間を80%まで削減
・新たに生み出された20%の時間で「心身のコンディション向上」「日々の生活充実」「多様な体験・学習」を支援して社員一人ひとりの成長を促す
働環境改善や過労死防止の観点で、電通の「労働環境改革基本計画」は非常に素晴らしい内容です。しかし朝日新聞の取材に、電通の元常務が「いずれも机上の空論であり、仕事の中身を変えない限りは、現場は今までどおりの仕事の仕方を変えない」と厳しいコメントをしているように、このトップダウン的な方法だけでは不十分だと感じます。
長時間労働を減らしても働き方は改善しない!?
みなさんに考えていただきたいのが、そもそも長時間労働を減らしたら、本当にワークライフバランスが実現するのかという点です。
仮に社員の労働時間を80%に減らしたら、新たに生み出された時間で、社員一人ひとりの自己成長が促せるのでしょうか。
私は「No」だと考えます。
なぜなら、長時間労働で病気になる人もいれば、ならない人もいます。少ない残業で病気になる人もいれば、ならない人もいます(長時間労働を肯定しているわけではありません)。
絶対的な長時間労働は健康を害する確率を高めますが、短時間でも病気になるし、長時間でも大丈夫なこともあります。そこには労働時間の長短では説明しきれない要素があるのです。