ゼレンスキー大統領演説で注目…同時通訳のプロに聞く「知られざる仕事の苦労」
「絶対押すなよ!」はどう訳す?
――芸術や芸能の言葉は、そのまま訳すと逆の意味になることがありますね。例えば、ダチョウ倶楽部のネタのひとつ、「絶対押すなよ!」は、日本人なら「押してくれ」だとわかります。しかし、そのまま訳していては、外国の方には伝わりません。この場合、どうしますか?
関谷:面白い質問ですね(笑)。難しいですが、ここは文字通り「Don’t push me!」と訳します。みんながダチョウ倶楽部さんの芸を知っていることが前提になっていますから、難しいですよね。でも実は、「絶対押すなよ!」は、世界的にコンテクスト(文脈)が共有されていると思います。
子供向けの英語の絵本で、『ぜったいに おしちゃダメ?』っていう作品があります。ボタンを押すかどうかという内容なんですけど、これが世界的にベストセラーになっているんです。だから、「押す/押さない」のせめぎ合いは世代も言語も越えて、コンテクストの共有があるので「Don’t push me!」で同じようにウケると思います。ただ、上島竜兵さんが熱湯に落とされる場面は、国によっては放映のハードルがあるかもしれませんけどね。
日本人は「Love」を重く捉えがち
――2021年のR-1グランプリで優勝した、お見送り芸人しんいちのネタはどうでしょう? 自分の嫌いなものやムカつくものを「好き」と歌いました。彼は無名だったので、コンテクストは共有されていませんよね。
関谷:そのまま「好き」という表現で訳しますね。このネタは、彼の声や表情もあって「好き~♪」に繋がっているので、そのまま訳して大丈夫だと思います。
――「Love」より「Like」が適切でしょうか?
関谷:日本人は「Love」を「愛」という意味で重く捉えがちですが、マクドナルドが「I’m lovin’ it」というコピーを使っていることからも分かるように、英語圏では「大好き!」くらいの重さなんですよ。なので、このネタはLoveでもLikeでも合うと思います。