ゼレンスキー大統領演説で注目…同時通訳のプロに聞く「知られざる仕事の苦労」
良い通訳は、正確に言葉を訳すだけではない
――正確性以外に通訳にとって重要なポイントはありますか?
関谷:私が大事にしてるのは、話者と受け手が「つながる」ということです。言葉だけでなく「間」も重要なんです。例えば、重要なことを話す前に「私が言いたいのは……」と、間を作ることがありますよね。同時通訳は話者の数秒あとを追いかけているので、その「間」のうちに追いついておきたいんですよ。しかし、そこを言葉で埋めてしまうと、話者の伝えたいテンションとズレが生じてしまいます。
――「間」も訳すということですね。
関谷:それから、話者のキャラクターも伝えようと思っています。「声優」のようなイメージですね。話の勢いや声の大きさも真似しますし、私の姿は誰からも見えていなくても、話者が身振り手振りを交えて話をしていたらそれを真似しながら通訳しています。
ダライ・ラマの通訳時に行った工夫
――どの日本語に訳すかも、キャラクターから判断しますか?
関谷:そうですね。1人称のバリエーションが多いのが日本語の特徴なので、どう訳すかは考えますね。話者が「I」と発したものを、「私」と訳すのがいいか「僕」にするのがいいか、または「俺」のほうが合っているのか。日本語は主語を省略しても伝わることが多いので、「I」をあえて訳さないこともあります。
2人称の「You」も、そのまま訳すと「あなた/あなたたち」になりますが、話者の人柄やテンションによっては「みなさま」と置き換えることもありますし、語尾も「~でしょ?」にするか「~だよね?」にするかで、印象も伝えようと思っています。
――場面によって人のキャラクターも変化しますが、その場合も訳を変化させていますか?
関谷:ダライ・ラマさんの同時通訳をしたことがあるんですが、物事をズバッと言うんですよ。そのため、スピーチ部分は「~です」と言い切る形にしました。しかし、彼はお茶目な一面もあるので、聴衆との質疑応答の際にはくだけた言い方で「~でしょ?」と訳しました。