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ゼレンスキー大統領演説で注目…同時通訳のプロに聞く「知られざる仕事の苦労」

ビジネス

 2022年3月23日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、日本の国会で演説を行った際、その発言は、日本語に同時通訳されていた。瞬間的な判断で言葉を選んでいかなければならない同時通訳だが、言葉の選び方ひとつで世界情勢にも誤った影響を与えかねない。

ゼレンスキー

President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy visited Uzhgorod ©Yanosh Nemesh  Dreamstime.com

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 そんな緊張感のある通訳という仕事について、テクニックやマインド、そして面白さを、ダライ・ラマ氏や元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏など、数多くの著名な人物の通訳を担当してきた関谷英里子さんに聞いた。

ぶっつけ本番で臨むことも

――ゼレンスキー大統領の演説のように、センシティブな舞台では特に気を使われていると思いますが、瞬時に言葉を出す同時通訳の、正確さを保つために努力されることはどんな部分ですか?

関谷英里子(以下、関谷):通訳にもそれぞれ専門の分野があり、今回ゼレンスキー大統領の通訳をなさったのは、政治の舞台で専門的にお仕事をされている方でしょうね。言葉を学ぶのはもちろんですが、専門分野への知識や知見を深めておくことが重要だと思います。

――今回は特例だったとは思いますが、一般的に外国のVIPが日本国民向けに発信する場合、スピーチの原稿は先に見れますか?

関谷:私が担当するビジネスの通訳では、なるべく原稿やパワポの資料を事前にいただいています。ただ、今回のように、国や行政の首長の方の場合、スケジュールを公表できない場合もあるようで、事前に知らされる情報が「こんな話をする予定です。でも、実際にそうなるかは分かりません」というようなオファーは、政治の世界での通訳ではあるようですね。確かに私が以前担当した首長の方は、事前に聞いていたものと全く違う内容を話していましたね。その時はぶっつけ本番でしたね。

「文法の違い」が難しい要因のひとつ

関谷英里子

関谷英里子さん

――どんな話をされるかわからない状況で同時通訳をするのは本当に難しそうですね。

関谷:文法の違いも同時通訳を難しくしている要因のひとつです。日本語と英語も文法が違います。英語だと「I think ~.」といった具合に「私は、思います。~だと」という語順になりますが、これを日本語に訳す時には「私は~だと思います」となるので、「だと思います」の部分をを頭の中に留めておきながら「~」の部分を訳していき、文末になったら「だと思います」をつける、という方法になるんですよ。ウクライナ語も日本語とは文法が違うようなので、その部分も難しさがあったと思います。

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