上司や経営者の言葉はスルーすべき?“必須のスキル”で仕事もうまくいく
他人の言葉に振り回されないためにスルーする技術(スルースキル)を身に着けようとする際に、あなたが不安になるのは、「本当に自分にそれが可能なのか?」ということではないかでしょうか。
「それは意気込みとしては理解できるが、例えば会社であれば上下関係もある。仕事では特に相手の言うことを正確に受け取らなければならない」と。
とくに、仕事においてはそんなことをしたら評価が下がるし、クビになってしまうかもしれないと考えてしまうのも無理はありません。しかし、実は、仕事においても言葉をスルーするほうがうまくいくことがさまざまな事例や研究からも明らかになっているのです。『プロカウンセラーが教える他人の言葉をスルーする技術』(みき いちたろう、フォレスト出版)をもとに紹介します(以下、同書をもとに寄稿)。
指示の8割はスルーしてきた社長
『日本経済新聞』を見ていて、ある記事が目に留まりました。その記事では、あなたも耳にしたことがあるような有名企業の社長のインタビューが掲載されていました。そのインタビューの中でその社長は以下のように語っていました。
「『仕事のうえで無数にくる要望や指示の8割はやらなくてもよい』と割り切り、着実に早く仕事をすることを心がけてきた。そして、重要な報告を受けるときも、『頭に残ったことだけが大事な要素』と考えるから、メモを取らない」と。まさにスルースキルともいうべき姿勢で、飛んでくる「言葉」を取捨選択してきたというのです。
こうした話を聞くと、「いや、社長になるくらいの人は特別優秀だからそんなことができるんだ」と否定したくなったり、「メディア向けに奇をてらった発言をしているだけだ」と思いたくなるかもしれません。でも、そのまま受け取れば「8割スルーしても大企業の社長になれる」とも言えます。果たして本当なのでしょうか?
できる社員はやり過ごす
今から20年以上前に、東京大学教授の高橋伸夫氏が書いた『できる社員は「やり過ごす」』(ネスコ)という本が話題になったことがありました。高橋氏によると、企業の中では「やり過ごし」というものが存在し、それが企業を機能させるために必要な役割を持っているのではないかと感じたことをきっかけに調査や研究をしてみたそうです。
「やり過ごし」とは、上司などから出された指示や命令をスルーすることです。
高橋氏が「やり過ごし」の存在を伝えると、学者によっては「そんなことはあり得ない」と反発されたり、大企業の部長からは「やり過ごしなどあってはならない」とお叱りを受けたりしたそうです。その学者や部長さんの感覚は、この記事を読んでいるあなたとも似ているかもしれません。「そんなのあり得ないよ」「実際に行うのは難しいよ」と。
でも、高橋氏が「やり過ごし」が存在するかを確認するために、三十数社数千人のデータを集めてみたそうです。すると、63.1%の人が「やり過ごし」があると答えたそうです。さらに、企業によってはその比率が9割にも及ぶことがわかったのです。