小学生から介護を始めた29歳女性が語る「ヤングケアラー」の現実
「弟は22年間ではっきりとした日本語をしゃべったことは一度もありません」。小学生の時から3歳下の弟をケアしていたという真美さん(仮名・25歳)。通学しながらの日常的なケアのみならず、10歳前後からは夏休みの日中も弟の面倒をみて過ごした。
「識字ができず数の概念もわからないため、障害者手帳の等級判定テストを受験することさえできない。だから弟は“超”重度の知的障がいだと説明しています」
若くして両親や祖父母、きょうだいの世話や介護などをしている子供たちを「ヤングケアラー」と呼ぶ。2021年4月、厚生労働省と文部科学省による合同調査で、その実態が初めて明らかになった。およそ1万3000人の中学校、高校の生徒を対象に行った調査では、中学生のおよそ17人に1人、高校生の24人に1人がヤングケアラーにあたり、そのうち1割超が、1日に7時間以上を食事の準備・洗濯といった家事などに費やしていた。
小学生のときから弟のケアをしていた真美さんも「ヤングケアラー」だ。
今まで一度も箸を持てたことがない
「リュウくん(弟)はいま22歳で、1単語さえ日本語をしゃべったことがないです。箸も一度も持てたことがない。完全に先天性の知的障がいで、2歳検診のときにはっきりと診断がつきました。知的のほうが重すぎて目立たないけれど、たぶん発達障がいもあります」
単語すら発することができないくらい障がいが重いリュウさん。真美さんは幼い頃から「うちの弟は他の子の弟や妹と違うな」と感じていたという。
「小さい頃から、『弟はしゃべりかけても返事がないな』とは思っていました。『わたしは弟と言葉でケンカしたり、一緒に買い物に行ったりすることはできないんだろうな』って」
髪の毛がかなり抜けました
リュウくんは「うちでは面倒見られません」と言われてしまうことも多く、保育園を転々としていたという。教会母体の幼稚園や障がいのある子のための保育園にも行き、小学校は最初から支援クラスだった。
「やりたいことができなかったり、うまくいかずに怪我をしてしまったりするので、誰かが見ていてあげる必要がある。6歳くらいの時は、家族の髪を掴んで引っ張っちゃうという癖が出たことがあります。『痛い、やめて』って言っても、すごく頑固で離してくれないから髪の毛がかなり抜けました。10~15歳くらいの思春期には、言葉が使えないために伝えたいことを伝えられずにパニックや癇癪を起こすことがよくあり、ベッドをひっくり返したり、靴箱を倒したりと、部屋を滅茶苦茶にしてしまう時もありました」
しかし、こうした状況を、家族が負担に感じたり、家族仲が悪くなったりすることはなかったという。
「おばあちゃんとか、弟に対して『かわいいねえ、かわいいねえ』って感じだったし、国からの補助をかなりもらえていて、ガイドヘルパーさんを頼んだり、15歳くらいになったら施設に1泊だけする『ショートステイ』を利用したりして、たしかに実費はかかるけれど生活ができないほどではなかったです」