慣れた所にじっとしているほど危険。コロナ時代の働き方<出口治明>
1つのルールしか知らない危うさ
時間がかかり苦痛も伴う作業ですが、それ以上に貴重なインプットが手に入るはずです。そして、融合が成功すれば組織の緊張感は高まり、それはとりもなおさず生産性の向上に結びつきます。
人から何かの相談事をされたとき、僕のアドバイスはいつも同じです。「変化の激しい今の時代、1つのところでじっとしているくらい危険な生き方はない。その場所のルールにしたがっていれば安心と安全が未来永劫保証されるというのは幻想に過ぎない。常に広い世界に出て変化にチャレンジし続けなくてはならない」
僕がこう述べると、「でも、ここを出たら何が起こるかわからないですよ」と反論する人もいます。それはそのとおりです。踏み出した先は、きれいに舗装された街並みからは遠く離れた辺境の地です。
一刻も早く、辺境に踏み出すべき
そこには標識もなく足元は石ころだらけ。迷ったり転んだりして怪我をすることもあれば、はじめて会う人たちと言葉が通じず孤独にさいなまれることもあるでしょう。でも、だからこそ一刻も早く、そこに足を踏み出すべきだと思うのです。
辺境での対処の仕方は、辺境に身を置き、そこで失敗を繰り返すことからしか学べません。そして、そうやっていったん知識やスキルを獲得してしまえば、もはや辺境は恐るべき未知のフィールドから、勝手知ったる自分のホームグラウンドになってしまうのです。
壁が壊れ、外部から侵入者がやってきたとき、そこにいる人たちに対して的確な指示を出せる「異質の辺境の民」というのは、どの共同体にとってもなくてはならない存在なのです。
<TEXT/立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口治明>
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