門脇麦、一番苦しかった時期を抜け出せた「フランス人演出家の一言」
認められたことがプレッシャーに
――本作に出てくるヒロインたちは自分を認められるまでに時間がかかっていますが、門脇さん自身は、自己肯定感は強いほうだとか。
門脇:そうじゃなかった時期もありましたよ。自己肯定感が強いのはバレエをずっとやってきたからだと思います。できないステップを練習してできるようになるとか、子どもの頃に成功体験をたくさんしてきた。努力すればできるようになるという実感を積んできた経験は、今の人格形成に大きな影響を与えてると思います。
でも、仕事を始めた当初は自己肯定感は低かったと思います。『愛の渦』(’14)でたくさんの賞をいただいて、そこから急にお仕事をいただくようになったんです。自分には何の力もないのに、賞をいただけたことがきっかけで仕事をもらうようになって、こんな私で申し訳ないという気持ちが先立つようになりました。
――ですが、それもそれまでの仕事の結果、積み重ねから繋がったわけですよね。
門脇:積み重ねというのも、10年くらいあれば実際に力もついていると思いますが、まだ右も左もわからなくて、自分の芝居が下手なのは分かっている状況のときにオファーをいただくようになってしまって、本当に申し訳ないみたいな気持ちばかりが湧いてしまったんです。それが1年くらい続くと、性格自体が内向的になってしまって。そのときが、一番苦しかったです。
価値観を180度変えた演出家の言葉
――そこからどう抜け出したのですか?
門脇:いろいろあるんですけど、4~5年前に、死ぬかもしれないと思った大病を経験して。そのあと、『わたしは真悟』(’16-’17)というミュージカルを、フランス人の演出家のもとでやったんです。そのときに、「クリエーションは、いいものからしか生まれないよ」「ハッピーな状態じゃないとアイデアなんて生まれないよ」と言われて、ハッとしたんです。
追い詰めて苦しんで生まれるものに価値がある。表現者は特にそんな思想がある気がしていて、私もあえて苦悩しようとして自分を苦しめていたことに気づいたんです。「楽しんでいいんだ!」と。それまでは、なぜか演技することを楽しんじゃいけないと思っていたんですけど、そこで180度ガラっと価値観が変わりました。
――大きな出会いでしたね。
門脇:その方から言われてもう一つ印象に残っている言葉が「Never say sorry.」。「なんで謝るの? 別に僕、迷惑かかってないけど。トライして、これは違ったなと思ったなら、違ったことが分かってむしろ良かったじゃない」と言われて、「確かに」と。その言葉で一気に心が軽くなり、自分を必要以上に卑下せずに、余裕と遊び心を持ってクリエーションと向き合う事の大切さを実感する機会が増えました。