「本当の自分はこうじゃない」職場のあなたがそう感じてしまうワケ
職場で自分らしくいられない気がする、明らかにおかしなことが行われているのに誰も注意しない……。現代社会には様々な問題がありますが、その悩みの根源は人間の進化と文明社会のズレであることが近年わかり始めています。
私たちが生得的に所有している遺伝情報と、現代の社会はあまりに違いすぎているのです。進化心理学の第一人者で明治大学教授の石川幹人先生がその謎を解き明かします。
※本記事は『その悩み、9割が勘違い』(KADOKAWA)から再編集し、抜粋しました。
職場が自分に合っていない場合
お悩み:今の職場での仕事は順調なのに、どうも自分に合っていない気がする。週末のボランティア活動では生き生きと自分を表現できているのに、職場では自分を隠しているようで息苦しい。
このように「本当の自分」にまつわる悩みは多く見られます。これらは自分が唯一絶対のものであり、いつでもどこでも矛盾なく一貫したものでありたいという願望の表れとも言えます。
私たちの祖先は狩猟採集時代に100人程度の小集団で協力作業をしていたと考えられています。そうした小集団では、獲物を追う、木の実を集めるなどの作業分担がなされており、当然、各個人の強みを活かして仕事が割り当てられていたでしょう。
木の実を集めるのが得意な人は、自分からその仕事を申し出ることもあったかもしれませんし、申し出た以上はしっかりと仕事をこなす必要があります。それがうまくいくと、「木の実を集めるのが得意」という自己イメージと、他者から見た「木の実を集めるのが得意な人」という他者イメージが合致します。
現代社会で生き抜くには
私たちはこの長く続いた狩猟採集時代に適応してきたため、この自己イメージと他者イメージが合致したときに、充実した感じを得るようになっています。「本当の自分」に従って生き生きと働くことが、小集団での分担作業を円滑に進める原動力になっていたのです。
ところが、現代社会の仕事は複雑になってきました。自分が不得意と思う仕事や、やりたくない仕事でもこなさなければならないことが多くあります。すると、現在の仕事が「本当の自分」とズレている気がしてくるのです。
狩猟採集時代は比較的単純な仕事を覚え、何年もかけて熟練していくという生活環境でしたが、複雑で流動的な仕事に対応すべき現代では、やりがいや自分のアイデンティティを確固として感じるにはやや限界があります。何らかの対応が必要になります。