トランプ→バイデンへの政権移行で「新たな中東リスク」も
トランプ政権とは親密だったが…
反対に、バイデン氏は選挙前からパレスチナへの支援を回復させると主張していることから、今後バイデン政権はパレスチナ問題を重視するだろう。そうなれば、イスラエルとの間で政治的摩擦が生じてくる可能性がある。
サウジアラビアのムハンマド皇太子やサルマン国王も、バイデン氏を祝福するメッセージを発表したが、ネタニヤフ首相と同じようにバイデン政権がどう接してくるかを見極めていることだろう。
トランプ政権とサウジアラビアは非常に親密な関係だったが、バイデン氏はトランプ政権下での関係を見直し、サウジアラビアによるイエメン内戦への加担停止、2018年のサウジアラビアのジャーナリスト(ジャマル・カショギ氏)殺害における説明責任追及などを求めてくることが考えられる。
イスラエルとサウジアラビアがどう動くか
サウジアラビア政府がバイデン氏の要求にすぐに答えることは考えにくい。バイデン政権になれば、米国とイランの緊張が緩和されるだろうが、サウジアラビアとイラン、イスエラルとイランの間でそれぞれトランプ政権下以上に摩擦や緊張が生じてくる可能性がある。
そのような事情を配慮してか、ネタニヤフ首相が11月22日にサウジアラビアを極秘に訪問し、ムハンマド皇太子と会談したという(イスラエル公共放送KANが報道)。最近、UAEやバーレーンがイスラエルとの国交正常化を発表したが、アラブの盟主であるサウジアラビアもイスラエルとの国交正常化をするか注目されている。
しかし、冒頭で述べたようにバイデン政権では“対イラン”包囲網が弱まることから、イランを脅威と見なすイスラエルとサウジアラビアが“米国抜きの二国間協力”を強化しようとしても不思議ではない。トランプ政権の終了で消えるリスクもあれば、バイデン政権の誕生によって生ずるリスクもある。引き続き中東情勢に注意が必要だ。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>