ビル・ゲイツが瞑想を始めた一冊。体験者に起きた驚きの変化
ビジネスパーソンが在宅勤務で自宅にいる時間が長くなると、気持ちの切り替えが難しい。そこで、マインド・トレーニングを行うのも手だ。堅苦しいイメージを持つかもしれないが、実はちょっとした物事から始められる。
イギリス保健医療委員会公認の臨床瞑想コンサルタントであるアンディ・プディコム氏は、元僧侶でありながらもとかく宗教的、神秘的な印象を持たれがちな瞑想やマインドフルネスを、人々にとってより身近なマインド・トレーニングとして広めたいとの理念を持ち活動している。
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、そんなプディコム氏が書いたマインドフルネスの入門書『頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる』で、瞑想をはじめた一人だという。
ゲイツ氏は「今の私は妻のメリンダとともに瞑想にすっかりはまっている」と自身のブログ「GatesNotes」で語り、瞑想に懐疑的だったゲイツ氏を「宗旨替え」させたのは、プディコム氏の本とアプリであり、「日々、ストレスを解消し、心を集中させるしばしの時間が誰にとっても必要なこの時代に、はじめの1歩としてうってつけの1冊だ」と紹介している。
本稿ではゲイツ氏が瞑想を毎日の生活に取り入れるきっかけとなった著者の邦訳版である『頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる』(アンディ・プディコム著、満園真木:訳)より、瞑想体験者のエピソードを紹介する。
仕事のプレッシャーで眠れない女性
レイチェル(29歳、女性)がクリニックに来たのは、なかなか眠れなくなっていたからです。医者に行ったら睡眠薬を処方されたものの、服用するのは気がすすまなかったといいます。
私たちは問題の原因について話しあいました。仕事でかなりのプレッシャーがあることと関係があるかもしれない、とレイチェルは考えていました。また、恋人と同居をはじめたものの、彼女が仕事ばかりしているのでけんかになることもあるといいます。恋人が無理解というわけではないものの、彼はレイチェルが優先順位を間違っていると感じているのだそうです。
レイチェルはその問題を「不眠症」と呼んでいました。よく眠れることはまったくないのかと尋ねると、ときどきはぐっすり眠れることもある、といいます。それなら、一般に毎日、慢性的によく眠れない不眠症とは違うように思われました。
それが最初にはじまった時のことを覚えていないかと聞きました。彼女の話によれば、半年ほど前、仕事が特に忙しい日があったそうです。翌日に大切なプレゼンテーションを控えて準備に追われ、家に帰ったのは真夜中過ぎでした。帰宅すると恋人はもう寝ていて、罪悪感と同時に少し寂しさを覚えたといいます。
「それ」がまた起こるのかと悩む
ベッドに横になっても、様々な考えが頭の中を駆けめぐり、とても不安だったのを覚えていると彼女は言います。翌日は自分のベストを出さなければならないし、見た目にも潑溂(ハツラツ)としていなければならないのに、考えれば考えるほど目が冴えてきて眠れません。そして不安はいつのまにかいらだちに変わっていました。最初は上司に腹が立ち、次に恋人に腹が立ち、最後には自分に腹が立ちました。
結果的に翌日のプレゼンテーションはうまくいき、会社は契約をとれたものの、レイチェルは自分が十分に貢献できなかったように感じ、みじめな気分になったといいます。けれども一番おそろしいのは、また同じことが起こるかもしれないということでした。その日、家に帰るまでには、もうよく眠れるための計画を立てていました。ゆっくりお風呂につかり、かなり早くベッドに入るつもりでした。
しかし疲れていたとはいえ、彼女の体はそんなに早い時間に眠ることに慣れておらず、またもや横になったまま何時間もまんじりともしないで過ごすことになりました。「それ」がまた起こって、また朝まで眠れないのかとレイチェルはパニックになりました。その後もそれは続きました。もちろん時にはすぐに寝つけることもありますが、眠れないのではないかと不安になり、それでさらに眠れなくなるというパターンができあがっていきました。