イスラエルがUAEと国交正常化。背景にあるトランプ大統領の思惑
徐々に変わりつつあるアラブ諸国
そしてアラブ諸国の実利的な行動は、パレスチナの孤立を露呈する形となった。エジプト、シリア、レバノンなどアラブ諸国でつくる「アラブ連盟」は9月9日に外相会談を開催したが、イスラエルとUAEの国交正常化を非難することを避けた。
これまで多くのアラブ諸国は、イスラエルとの国交正常化には入植地の撤廃やパレスチナの国家承認を前提条件としてきた。
しかしアラブの盟主であるサウジアラビアがイスラエル・UAEを結ぶ航空便の上空通過を許可したように、アラブ諸国のイスラエルに対する姿勢は実利的なものを重視し、理念を重視しない方向に動いている。
一方、ドナルド・トランプ米統領にはどんな狙いがあるのだろうか。オバマ前政権とトランプ政権は考え方が対立にあるが、外国の紛争に加担しなくないという非介入主義では同じであり、トランプ政権もその方向で中東政策を進めている。
米大統領選が変える「中東情勢」
イスラエルにとって、米軍の中東からのプレゼンス低下は安全保障の面で大きな問題である。長年イランと対立するなか、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相には今回の国交正常化でアラブ諸国との関係を強化し、イランを孤立化させたい狙いがある。
UAEとバーレーンとの国交正常化は、現在は経済的領域が表立っているが、中長期的には安全保障にまで踏み込んだ話になる可能性もある。
そして、トランプ大統領の狙いも同じようなもので、イスラエルとアラブ諸国をできるだけ接近させ、イラン包囲網を強化したいと考えているようだ。そして11月の大統領選で支持基盤であるキリスト福音派からの支持を確実なものにし、選挙戦を勝ち抜きたい狙いもある。
しかし、選挙戦で野党・民主党のジョー・バイデン候補が勝利した場合、情勢は大きく変化する可能性が高い。バイデン候補はオバマ前政権の継承を宣言しており、2018年に離脱したイラン核合意に復帰する姿勢を明確にしている。つまりこれまで築いたトランプ政権による“イラン包囲網”が根本的に変わることになり、イスラエルやサウジアラビアの対米不満が再び高まる可能性もあるのだ。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>