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日本でもTikTokが禁止に?本当に“中華製スパイアプリ”なのか

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理由はアメリカの大統領選か

 そもそも、どうしてそれほどまでにTikTokが目の敵にされているのか。2016年に就任したトランプ大統領といえば、“敵”を仕立て上げて攻撃することで支持を固めるのが常套手段だ。今般議論されているTikTok排除論も、今年11月の選挙に向けたキャンペーンの一環だと見て間違いないだろう

 ところで、1980年代には日本の貿易黒字がアメリカで問題視されていて、街頭の日本車が叩き壊されるという事件も起きた。その頃には“日本叩き”をする政治家が躍進したが、ビジネスマンであるトランプにとって、この日米貿易摩擦は印象深い出来事だったはずだ。

 トランプは4年前の大統領選で、国内の貧困層に向けて「日本や中国の製品がアメリカの雇用を奪っている」と訴えた。これはかつての日米貿易摩擦の完全な焼き直しである。

 しかし日本企業は、貿易黒字削減のため、かねてから製造拠点のアメリカ移転を進めていたのだ。中国と一緒くたにされるいわれはなく、完全なとばっちりである。ところが、攻撃対象に日本を含めることで、かつての“日本叩き”の熱狂を思い出させることができ、トランプは僅差でヒラリー候補を破った。この成功体験を彼が手放すことはないだろう。

 日本国内に米共和党の“TikTok排除”に同調する声があるのは、「日本は仲間だから、悪者にしないで」という、トランプ政権への哀願にも思える。仕方ないとはいえ、『ドラえもん』のスネ夫みたいで情けない。

TikTokの「代わり」はたくさんあるが…

スマホ 女性

 仮にTikTokが消滅したとしても、機能的に代替できるアプリは存在する。むしろTikTokというのは、YouTubeやTwitterと比べて“できること”が少ないアプリである

 規制推進派はおそらく今後、各アプリの機能対照表を提示して「TikTokがなくなっても社会的な影響は軽微」と主張していくはずだ。しかしSNSというのは、単純に機能だけで比較できるものではない。たとえばInstagramには「文章だけの投稿」ができないが、この制約によってInstagramは、長文で語るタイプの人を排除することに成功し、一大ムーブメントとなった。

 同様に、TikTokにはTikTokでたくさんのユーザーがいて、独自の文化が育まれている。トランプ大統領を筆頭に、世界各国の制度設計に深く関与している成人男性には、TikTokの楽しさがわからないかもしれない。しかし、国際政治の理屈で彼女たちの遊び場を奪い去るというのは、すこし残酷すぎやしないだろうか。

<TEXT/ジャンヤー宇都>

「平成時代の子ども文化」全般を愛するフリーライター。単著に『多摩あるある』と『オタサーの姫 〜オタク過密時代の植生学〜』(ともにTOブックス)ほか雑誌・MOOKなどに執筆

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