コロナ下で酒の量が増えた…依存症にならない“適正飲酒”を専門家に聞く
お酒を飲まないほうがいい時=「HALT」
――アルコール依存症に陥らないために、どのようなことを心がければいいのでしょうか。
斉藤:こういう状態で酒を飲むのは避けようというルールを示した「HALT」という言葉があります。Hは空腹(Hungry)、お腹が空くと飲酒欲求につながりやすい。常にお腹に何か貯めておくこと。それからAは怒り(Angry)、Lは孤独(Lonely)、最後のTは疲れ(Tired)。特に、怒りはスリップ(断酒していた人が再び飲酒してしまうこと)につながります。
この4つがスリップにつながりやすい状態とされています。あとは頭文字をHからSに変えたSALTというのがあって、こちらのSは睡眠不足(Sleep)を指します。同様に注意が必要な状態といえます。
――アルコール依存症の問題がある一方で、飲酒は文化でもあります。上手に酒と付き合うためにどんなことを心がけていけばいいのでしょうか。
斉藤:認識として持たないといけないのは、酒は薬物だということです。覚せい剤や大麻、LSDやMDMA、ヘロインなど違法薬物はいろいろありますけど、アルコ―ルは合法でありながら、社会的にも身体的にも最も害のある薬物の第1位なのです。
文化としての飲酒は確かにあります。でも、そこにかこつけて「俺の酒が飲めないのか!」みたいな、誰かに飲酒の強要するのはナンセンスですし、アルコールハラスメントです。飲み会であっても、飲んでもいいし飲まなくてもいいというような緩い枠組みがこれからの時代には必要なんじゃないでしょうか。
“減酒”は効果があるのか
――アルコール依存症治療の現場では“減酒”ということが言われ始めていますよね。
斉藤:昔は、アルコール依存症治療は「断酒一辺倒」だったんです。「酒をやめて生きるか。飲んで死ぬかどちらか」を患者さんに突きつけるようなアプローチ方法です。ただ、このような二者択一を迫るような手法や、やめる意欲の高い人のみ受け入れる方法は多くの死者を生み出します。アルコール医療に求められることは、酒をやめさせることではなく死を防ぐことが重要です。現在は、予防医学が主流ですから、あらかじめ飲酒量をコントロールしてアルコール依存症にならないようにアプローチする方法があります。
依然としてアルコール依存症治療の敷居が高いのは、精神科の領域であることや、酒をやめさせられるという恐怖感、意志が弱い、だらしない人がなるといった従来の「アル中のイメージ」という先入観が根強いからです。
最近は断酒にするか、減酒にするかを患者さんとじっくり相談しながら、段階に断酒を目指していくような緩やかなアプローチ方法が主流になっています。当事者が主体的にゴールを決めて周りはどうサポートするかを考えていきます。減酒の方向で進めていって、それでもダメだったら断酒に移行するという段階的なアプローチです。
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次回、<なぜ人は自粛要請でもパチンコに通うのか?依存症の恐怖を専門家に聞いた>に続く。
<TEXT/目黒川みより>