なぜ人は自粛要請でもパチンコに通うのか?依存症の恐怖を専門家に聞いた
依存症を自覚し、通院するように
――本人は戻ってきたのですか。
斉藤:失踪から2か月後に戻ってきました。話を聞くところ、ネットカフェに泊まりながらギャンブル漬けの生活を送っていたようです。結局、実家からくすめたお金もすっからかんになって、また両親に泣きついたようです。今度はクリニックの近くでアパートを借りて1人暮らしを始めて、通院するようになりました。両親も、今後一切ギャンブルで作った借金の尻拭いはしないという約束を息子の前で固く誓いました。
――ようやく本人が依存症を自覚したということですね。
斉藤:ちょうど治療開始して半年後には自助グループにも行き始めて、ギャンブルのない生活を始めるんですけど、それから間もなくお父さんが亡くなるんですよね。過度なストレスが大きな原因で、くも膜下出血でした。そして、原因は明らかに息子のギャンブルの借金問題でした。彼は、親せきからも嘘をついて借金をしていたためお父さんも肩身の狭い思いをずっとしていたのでしょう。
本人も「親父が亡くなったのは自分の責任です。ずっと迷惑をかけて自分が殺したようなものです」と反省し、「1泊だけ田舎に帰って葬儀に出席させてください」と懇願しました。出席したら、親戚にも借金していたため、針のむしろでぼろくそ言われるのは想像できます。でも、それも覚悟の上だと思ったので、本人の意思を尊重して主治医は特別に許可しました。
人はそう簡単に変われないのか…
――本人の反省の意思や、依存症からの回復の兆しが見られた、と。
斉藤:本人は率先して告別式の受付を担当。辛辣な言葉をかけられながらも立派にやり遂げたようです。葬儀告別式を終えて、お母さんも彼の回復ぶりを間近で感じていたようです。
これで元通りの暮らしに戻れると思いきや……。息子の名前をお母さんが呼んだのですが返事がありません。また、いなくなってしまいました。香典を持ち逃げしたんですよ。結局発見されたのが実家から数キロ離れたパチンコ屋でした。後日、私もその話をお母さんに聞いたとき「狂っている」と思ったと同時に、完全に脳がギャンブルにハイジャックされているなと感じました。