中東イラクで「イスラム国」が再び活発化。コロナの陰でテロが急増
9.11以降、海外に出る日本人や日系企業にとってテロが大きな懸念となった。筆者もよくインドネシアやインド、中東や欧州などテロがよく発生する国々を訪問するとき、成田空港で「テロに遭いませんように!」と心の中で祈ったものだ。
幸いなことに、近年、世界のテロ事件数はかなり減少傾向にある。しかし、この10年でも日本人が巻き込まれるテロ事件は断続的に発生しており、依然として注意が必要な状況に変わりはない。そして、そのような中、世界で猛威を振るってきた「イスラム国」の活動が中東イラクで活発化しているというのだ。
コロナの影響でイスラム国への対応が疎かに
2020年に入ってイラクでは、1月にテロが79件、2月に82件、3月に61件だったが、4月は110件と大幅に増加した。110件のうち、親イランのイスラム教シーア派武装勢力によるテロが2件で、残りの108件はイスラム国によるテロだったという。
特に首都バグダッドに近いディヤラ県、北部のキルクーク県とニナワ県での発生件数が増えており、108件のテロで81人が死亡、162人が負傷したという。専門家の間では、イスラム国が再び勢力を盛り返し、中東の安定が脅かさせるとの懸念が広まっているのだ。
そして、ここにも新型コロナウイルスの影響が見える。イラクでも新型コロナウイルスの感染が確認され、首都バグダッドなどでは外出禁止令が発令され、兵士や警察官の多くはそちらの対応に回され、イスラム国への対応が疎かになっている。
また、これまでイラク軍を訓練してきたのは米軍主導の有志連合であるが、イランを支援する武装勢力の度重なる攻撃によって、米軍はイラクでの任務を縮小する方向に入っている。
いまだに続くイスラム国の脅威
最近のイスラム国が起こすテロは非常に計画的で、より洗練されたものになっている。テロ組織というのは、基本的に資金がないときには身代金目的の誘拐を繰り返し、余裕がある時にはより計画的、大規模なテロを実行しようとする。イスラム国は最近、イラクの砂漠地帯などに設置されている監視カメラを意図的にどんどん破壊し、イラク当局のテロ掃討作戦を混乱させようとしている。
世間では注目の集まらなくなったイスラム国だが、その脅威は本当になくなったのだろうか。答えは「No!」だ。
国連やアメリカ国防総省もそれを指摘している。国連は2019年7月、イスラム国と同じような主義主張に徹する「アルカイダ」に言及。アルカイダは依然としてアフガニスタンを拠点とし、タリバン(Taliban)やハッカーニ・ネットワーク(Haqqani Network)などのイスラム過激派と密接な関係にあるとしている。
米国防総省も同年8月、イスラム国の領域支配の崩壊は宣言されたが、その後も一部の戦闘員は逃亡し、米軍がシリアから撤退する機会をうかがいながら組織の再生を図ろうとしていると指摘したのだ。