NHKから映画界へ。人気監督が語る若手時代「肥やしとなるものに貪欲だった」
芥川賞受賞の小説を映画化した『影裏』が公開中。岩手に転勤してきた主人公の今野に綾野剛さん、突然姿を消すその親友の日浅に松田龍平さんが扮した人間ドラマです。
NHK時代に『ハゲタカ』大河ドラマ『龍馬伝』などを演出し、独立後は『るろうに剣心』シリーズ、『ミュージアム』『3月のライオン』『億男』などを手掛けてきた大友啓史監督(53)にインタビューしました。
1990年にNHKに入局し、秋田放送局にディレクターとして配属された大友氏は、皆が知る“映画監督・大友啓史”になる前、ドキュメンタリーなどを担当。現在の礎となった20代の頃の話を聞きました。
素材には、それにあった撮り方がある
――人によって響くポイントも残るものも違う、答えを提示しない作品です。監督にとって新たな挑戦と言われています。
大友啓史(以下、大友):自分にとっては、特に違和感のある企画ではないですね。これまで大作とかアクションとか、どちらかというと劇的なものだったり、動的なものを撮ってきたけれど、僕としては『影裏』のような、静謐(せいひつ)な文学作品もぜひやりたいと思っていたジャンルのひとつですから。
――そうはいっても演出の方法としては、これまでにないこともされているかと。
大友:素材の魅力の立たせ方という意味ではそういう面も少なからずありますね。この映画をあまりに分かりやすくしてしまうと素材の魅力がなくなってしまう。だから素材にあった演出をしたまで。
『影裏』では、今野と日浅、ふたりだけの感情の交錯、ドラマの原点を丁寧に撮りたかった。綾野剛、松田龍平といういい役者でね。そこから生まれてくるものを、ぜい肉をそぎ落として撮る。いわばドキュメンタリーの感覚に近いかもしれません。
ある種の不穏さがテーマのひとつ
――確かにふたりのドラマをじっくり見つめた作品ですが、冒頭の今野のシーンから艶っぽい映像も印象に残りました。
大友:原作を読んで、ある種の不穏さがテーマのひとつだと感じました。そしてもうひとつは、セクシャリティです。その二つの香りがしなきゃいけない。危うさと艶っぽさの両方を漂わせる必要がある。今野という人が、その淡いの中で生きてきて、おそらく様々な価値観とぶつかってきた人ですから。
だから主人公を描くといううえで、艶っぽさも必要だったわけです。そして、それを生かせる、狙えるカメラマンとして芦澤明子さん(『LOFT ロフト』『トウキョウソナタ』『散歩する侵略者』ほか)にお願いしました。