吉本興業も…「ファミリー」と言う経営者は何を考えているか?
吉本興業の岡本昭彦社長が、7月22日の記者会見で強調した「社員・芸人はファミリー」であるという考え方。昭和のお父さん世代の企業は、確かに終身雇用で、社宅では奥さん含め疑似家族を形成していた。
しかし、「社員はファミリー」だという考え方は今、ウケない。これまで600社の経営陣と人事の裏までを見てきた人事・戦略コンサルタント松本利明氏がそう語る。この言葉を使う経営陣が何を考えているのか、解説してもらった(以下、松本氏寄稿)。
ファミリーという思いに嘘はないから始末が悪い
意外なことに、ファミリーや仲間を強調する経営者や上司は「若い社員から搾取しょう」という意図がないケースがほとんどです。「今のお前が転職しても先々はないので、今の会社で頑張れ」と、本気で社員のことを大事に思っています。
ファミリーという言葉を使うのは、オーナー系の企業に多いです(吉本興業もかつては吉本家のオーナー企業でした)。たくさん給料を払うことも難しいなか、自分を信じてついてきてくれた社員は可愛いし、大事にしたい。一度、仲間になったのなら、生涯ずっと大事にしてあげたいという彼らの思いは、嘘ではありません。
だからこそ、始末が悪いのです。ファミリーという言葉は「愛」とも言い換えられますが、愛の形は様々です。一方的な片思いも、度を越すととストーカーになります。家族の形態が、大家族・亭主関白から核家族と変わり、LGBTを受け入れるようになった今では、昭和の臭いがするファミリーという言葉は届きにくくなっているのです。
上司も部下も疑心暗鬼で見ている
組織には“父親的機能”と“母親的機能”があります。家族を守るため、未来を示し、統率し、ぐいぐい引っ張るのが父親的機能。どんな社員にも諦めずに接し、支えるのが母親的機能です。母親的機能は「いつも勉強しなさい! 部屋を片付けなさい」と小言をいい、父親的機能は「こらー!」と、ちゃぶ台をひっくり返して雷を落とします。
ファミリーという言葉は、この父親的機能を担う経営陣と、その子分が好む言葉です。「悪いようにはしない」「連帯責任だ」などの態度と言動で、マウンティングを取ろうとするのです。まさに昭和のホームドラマのひとコマが、令和の時代になっても、大手企業で行われているのです。
上司の「俺の言う通りにすることが正しく、一番正解に近い。悪いようにはしない」という意図を、部下が感じ取らないと成り立たないのです。実際、ファミリーだと謳いつつ、恐怖政治をしていた組織が、内部告発で、ボロボロと崩壊するケースは存在します。
こういう企業は、上司も部下も心の奥では相手を疑心暗鬼で、見ています。「コイツは従順なヤツか、裏切らないヤツか」を見極めようとしているのです。そのため「忖度」が常態化してしまい、感受性が鈍っているので、このご時世に「えっ?」と思うような記者会見をしてしまうのです。