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ナチスが美術品を略奪したおぞましい理由。今も10万点が行方不明

3:ホロコースト以外の“ユダヤ人絶滅”計画

奪われた名画のゆくえ

 映画でも詳しく説明されますが、ナチスは「大ドイツ芸術展」の数百メートル先に「退廃芸術展」も開催。ナチスの理想美にそぐわないと見なされたピカソ・ゴッホ・シャガール・カンディンスキーらキュビズム、抽象派、印象派などの“近代美術”が、“破壊される予定”の「退廃芸術」として展示された多くはユダヤ人やスラブ人作家の作品でした。

 これら抽象芸術作品は、ユダヤ民族やスラブ民族の“美しくない不純”な特徴が描かれているとして、彼らを“劣等人種”として位置づける意図があったのです。ユダヤ人芸術家を貶め、ユダヤ人から芸術を奪い取る……。これは、ホロコーストとは別の形の“ユダヤ人絶滅”計画でした。

4:ナチスの資金作り

奪われた名画のゆくえ

 ナチスが強奪した美術品はスイスの画商を通して競売にかけられ、その目録のうちのひとつは1944年の時点で、現在の価値に換算すると1800万ユーロ(約22億8300万円)だったと考えられており、これらを売って得た金はナチスの資金となりましたが、いまだにどこかに隠されているとして、世界各地に埋蔵金や財宝伝説となって残っています。大部分は眉唾ものですが、未発見の略奪美術品が10万点以上もあることを踏まえると、必ずしも嘘とは言えませんよね……。

 実際に、本作で登場する2012年のグルリット事件は、ミュンヘンにあるコーネリウス・グルリット宅からピカソ、ルノワール、マティスなどの美術品が1280点が発見された事件。その価値は当時10億ユーロ(約1270億円)でした。実は、グルリットの父親がヒトラーお抱えの画商で、ナチスが奪った美術品をずっと隠し持っており、グルリットは闇マーケットでそれらを少しずつ売って働かずに生活していたそう!

 第二次世界大戦後、ナチス略奪美術品の多くはヨーロッパ各国の国家美術品と認定され、現在でも各地の美術館で飾られています。元所有者や遺族が返還を求めても、戻ってきたのは一部の作品だけ。彼らのなかには、さほど高価でもない数枚の絵画を取り戻すために全財産と一生を投げ打つ人もいるのだとか。なぜなら元所有者や遺族にとって、ナチスに盗まれた美術品を取り戻すことは、失われた“一家の物語”を取り戻すことなのだから……。

 ナチスの略奪美術品が発見されるたびにニュースになるのは作家名や金額――。しかしそれよりも、絵画1枚1枚の裏には“人生を失われた個人”の存在に、私たちは思いを馳せるべきではないでしょうか。

<TEXT/此花さくや>

【参考】
※1…講談社現代新書「ナチスの財宝」篠田航一著
※2…映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』プレス資料

映画ライター。ファッション工科大学(FIT)を卒業後、「シャネル」「資生堂アメリカ」のマーケティング部勤務を経てライターに。アメリカ在住経験や映画に登場するファッションから作品を読み解くのが好き。Twitter:@sakuya_kono、Instagram:@sakuya_writer

ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は4月19日ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国公開
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
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