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若者の恋愛下手は今に始まったことじゃない! 民俗学者がズバリ解説

暮らし

矛盾した恋愛観だから若者たちは苦労する

――意外と最近になって入ってきた価値観なんですね。

新谷先生:しかし、村ではみんな知り合いという時代には、若い男女が肉体関係を持たずに結婚することは、一般庶民には基本的にありませんでした。にもかかわらず、大正から昭和初期の頃、結婚の当日に初めて顔を会わせるような見合い結婚さえあったのです。

 その様子は、1923年(大正12年)に発表された日本の抒情歌『花嫁人形』の歌い出し「金襴緞子(きんらんどんす)の帯しめながら、花嫁御寮(ごりょう)は何故泣くのだろ」にあらわれていますね。

 そして、アメリカ風の恋愛賛美の考え方が入ってきたのが、太平洋戦争後。ただし、“婚前は清い身体で”という意識は残ったまま。だから若者たちは苦労するのですね。

昔の恋愛を再現することは難しいけど…

恋愛

――恋愛はしていいのにセックスはしてはダメ、の板挟み。そうして恋の駆け引きが必要になったのですね。となると、現代の恋愛モデル自体、日本的ではなかったと。

新谷:例えば、イタリアやフランスなどでは口説くのが文化のようなものですが、日本人はそれまで口説いたことなどなかったのです。若い皆さんが“恋愛が面倒臭い”というのは、“口説くのが面倒くさい”ということでしょう。手間はかかるし、振られたときのショックもありますから。

――しかも現代では、性的サービスもAVも豊富。性的な欲求が簡単に解消できるというのも、恋愛離れを後押ししているのでしょうね。とはいえ、日本人はみんな恋愛下手だったと聞くと、なんだか少し安心。だからこそ、一人ではなく、分かり合える友だちと協力し合いながら恋を成就させていた歴史があったのですね。

■ ■ ■ ■ ■

 昔の恋愛を現代に再現することは難しいけれど、共通の友人から意中の相手に気持ちをほのめかしてもらうのは、今でも使えそう。一番強いのは生身の人間同士のつながりなのかもしれませんね。

⇒次回、<日本人の性のテクニックは衰退の一途?考えられない昔の性事情>に続く。

新谷尚紀(しんたに・たかのり)
1948年広島県生。社会学博士(慶應義塾大学)。現在は、国立歴史民俗博物館名誉教授・国立総合研究大学院大学名誉教授。著書は『柳田民俗学の継承と発展』(吉川弘文館)など多数。

1994年生。國學院大學で民俗学を修めたのち、編集・ライターに。日本民俗学会所属。論文に「関東地方の屋敷神―ウジガミとイナリ」がある(『民俗伝承学の視点と方法』新谷尚紀編、吉川弘文館)

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