飛行機の墓場は宝の山!廃棄部品を商品にアップサイクルさせる日本唯一の企業
皆さんは、飛行機が任務を終えた後、どうなるか知っていますか? 世界中を飛び回った機体が最後に行き着くのは、アメリカの砂漠地帯にある空港で、いわば「飛行機の墓場」と呼ばれる場所です。しかし、この「墓場」は、ただの保管場所ではなく、新たな経済を生み出す「宝の山」でもあります。今回は、SDGsをもとにした循環型経済の推進をテーマに、日本で唯一航空機リサイクルを行う富山県の豊富産業が、どのようにこのビジネスモデルを展開しているのかご紹介します。
目次
なぜ日本で航空機のリサイクルが可能になったのか?
これまで航空機のリサイクルは、ほぼアメリカで行われていました。なぜなら、アメリカには屋外での保管に適した乾燥した広大な土地と、作業のためのインフラが整っていたからです。しかし、日本でもコロナ禍以降は搭乗客の激減で運航せずに退役する航空機が増え続け、環境問題への意識が高まる中で、国内でのリサイクルニーズが急速に増加しました。
日本では航空機廃棄に関する法規制が厳格ですが、豊富産業は、その高度な技術力と信頼性でこの障壁を突破し、日本でたったひとつの航空機リサイクル業者としてその地位を確立しました。
同社は、すでに日本においてリージョナルエアラインと大手エアラインでの国内リサイクルを実施しています。大手商社でも同様の取り組みはありますが、自社での作業ではなく、リサイクル企業に委託するわけですから、現時点で豊富産業は唯一無二の存在なのです。
自動車や鉄道の実績から航空機事業へ参入
豊富産業は、もともと自動車や鉄道車輛などのリサイクルで培った技術を持ち、その実績に基づき航空機リサイクル事業にも参入しました。
参入のきっかけを、豊富産業の代表取締役社長高倉康氏さんは次のように語ります。
「2014年に、アメリカのカリフォルニア州への視察で墓場となる空港を見学しながら、挑戦してみようと思い立ちました。これまで、自動車や鉄道車両などを手がけてきましたので、アメリカで飛行機が飛ばずにゴロゴロと並べられている様子を見て、『ドル箱が眠っている』と思いました。すぐに事業参入を決断し、世界で唯一の業界団体『航空機リサイクル協会(AFRA)』にも加盟しました。これから、リサイクルの市場は世界中にあると思っています」
世界でひとつのこだわりアイテムに生まれ変わるアップサイクル
最近、航空機や鉄道の廃棄部品を利用したアップサイクル商品が注目を集めています。座席の生地を使ったバッグや、窓枠などをインテリアとして再利用したアイテムなど、ユニークでサステナブルな商品が販売され、若い世代にも人気です。こうした商品は、単なるリサイクル品ではなく、デザイン性や機能性を新たに加えた「アップサイクル」として認識されています。
豊富産業は、リサイクルにとどまらず、アップサイクルにも協力しており、退役航空機の部品は、まったく別の用途の新しい製品として再利用され、再び私たちの生活に役立つものとなります。
豊富産業自体は、環境に配慮した航空機リサイクルプロセスを推進していますが、アップサイクル商品は主に航空会社やグループの他の事業者によって開発・販売されています。例えば、ANAやJALといった日本の大手航空会社は、退役機材から活用のできる部品を取り出して、新たな商品を作り出す取り組みを行っています。
座席生地を使用したバッグや、胴体の機体番号部分を切り取った部品など、航空機ファンには手元に置いておきたい世界にひとつの、こだわりアイテムが数多くそろっています。
バッグやポーチなど実際に購入も可能
これらのアップサイクル商品は、各航空会社の公式サイトで購入することができます。興味がある方はぜひチェックしてみてください。例えば、以下のサイトでは航空機関連のアップサイクル商品が販売されています。
ANAの胴体部品を利用したアクセサリーやインテリア商品などを販売しています。航空機の窓枠(30万円)や、機体番号が刻印された前輪カバー(250万円)、胴体後方の機体番号の書かれたカットパーツ(270万円)、VHFアンテナ(35万円)などがあります。シートファブリックで作られたトートバッグやポーチ(3,520円~)なども用意されています。ANAのHPでは、マニアック、ニッチ、レア、エコなどのキーワードで集客しています。
JALでは、退役機材から製作されたアップサイクル商品として、ライフベストを再利用した商品(ショルダーバッグ11,000円~)やカリモク家具で加工したボーイング777のカーゴライニング(貨物室の壁紙)から作られたカードケース(22,000円~)を提供しています。
また、デジタル化にともない、パイロットが使用する紙の航空図が廃棄されるところに社員の発想で生まれたのが「JALチャート」バッグ(スマホショルダーは6,600円~)です。「紙のチャートをリサイクルポリエステル生地とPVC(ポリ塩化ビニル)で挟んで縫い付けた、これまでにないJALオリジナルデザインのバッグです。」(JAL公式HPより)
航空機のリサイクルは持続可能な未来をサポートする一歩
航空機の部品は何百万点という膨大な数で構成されており、新たな発想によって生まれ変わる製品で寿命が大幅に伸びることは環境にとって大事なことです。
また、航空機部品の中でも大型のものは、アメリカからの輸送費が高額になりますので、日本でのリサイクルが進めば、その価格もグンと下がる可能性があります。
豊富産業の航空機リサイクル事業は、日本における持続可能な経済循環を促進しています。単に廃棄物を処理するだけでなく、部品の再利用やアップサイクルを通じて、地球環境に優しい新たなビジネスモデルを提案しています。
この取り組みは、SDGsが掲げる「つくる責任、つかう責任」にも直結しており、私たち一人ひとりが参加できる持続可能な未来をサポートする一歩となるでしょう。